〈月間メディア批評〉 エスカレートする朝鮮の体制非難 |
各種の世論調査で80%以上の回答者が朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に対する経済制裁の発動を求めると回答している。民間の教育機関ともいうべき新聞、テレビ、雑誌などのマスメディアが、過去2年3カ月にわたって、朝鮮の政府と人民を誹謗中傷するプロパガンダを続けてきた結果だ。これほど一つの国に対し、継続的に徹底して悪意に満ちた報道が続いたことは、「鬼畜米英」を叫んでいた戦中以外かつてないと思う。 年末になってまたぞろ「北朝鮮の王朝??」が日本のメディアに目立ってきた。1日朝のフジのワイドショー「特ダネ??」は皇室ネタに続いて「北朝鮮の内部崩壊」を取り上げた。 キャスターが「真偽は分からないが…」と繰り返しながら、「北朝鮮の50の都市で、ペン書きの政権批判ビラが大量にまかれた」「中国が世襲をいいかげんにしろと北朝鮮当局にきつく批判した」などと延々15分オンエアした。テレビ朝日並みの偏向報道である。 週刊誌も「王朝崩壊へ」などと大々的に報じている。 こういう無責任な報道には必ず重村智計早大教授と「脱北者」が登場する。重村氏は「金正日総書記の肖像画が撤去されている」ことや、朝鮮中央テレビが総書記の肩書きを変更したという「事実」について、朝鮮の国家元首を呼び捨てにして、「すべては独裁者の命令だ。もし勝手にやれば全員処刑される」と繰り返した。 テレビでは、また、「異常事態」が起きているというナレーションを流して、重村氏らは「政権がひっくり返る兆しだ」「内乱前夜」などと論評した。 公共の電波を使って、「真偽が不明」な情報を大量に垂れ流すことが許されるのであろうか。 韓国の盧武鉉大統領は11月12日、ロサンゼルスで演説し、朝鮮への経済制裁について反対を表明したうえで、自衛のための核の抑止力を必要とする北朝鮮の主張にも「さまざまな状況をかんがみると一理ある」と理解を示した。また5日には、朝鮮の体制崩壊の兆しはないと断言し、韓国は朝鮮の体制崩壊を望まないと明言した。そういうニュースはベタ記事でしか伝えられない。 よその国の「世襲」を言うのもいいが、たまには「万世一系」の天皇制や日本の国会議員の世襲について議論をしてみたらどうか。 なぜ「さん」付けなのか 「39年ぶりに自由の身になった」。米海軍横須賀基地内の拘置施設で禁固30日の刑に服していた曽我ひとみさんの夫のチャールズ・ジェンキンス氏が11月27日に釈放された日のNHKニュースはこう冒頭でコメントした。大きな荷物を持ってヘリでキャンプ座間に向かう姿が放映されたが、7月にインドネシアを発つときに見せたあの弱々しい姿とは全くの別人に見えた。 彼はベトナム戦争で無辜のベトナム人を殺害することを忌避して、自由を求めて38度線を渡ったのではなかったのか。朝鮮はベトナム戦争に反対していた彼の政治亡命を受け入れて丁重に処遇したという見方もあるだろう。 彼が39年間、ずっと自由を奪われていたのは、世界最大の軍事大国の軍法に違反したからではないのか。 在日米陸軍司令部(キャンプ座間、神奈川県座間市)で10月3日に開かれた米軍法会議では禁固9カ月が求刑されたが、裁判官のバウエル陸軍大佐は、起訴された4つの罪のうち「脱走」と「敵への支援」を有罪として刑が確定した。 ジェンキンス氏が軍法会議の審理の中で、朝鮮を悪く言ったことを、日本のメディアは事実の検証をせずに、そのまま真実であるかのように報じた。減刑嘆願を求めた妻の陳述もそのまま報じた。これでは報道(report)ではなく、「運搬」(port)だ。 軍法会議で刑を軽くしてもらうために、「敵」について悪く言うのは当然で、割り引いて伝えるべきだろう。 また日本の企業メディアが一致して、「ジェンキンスさん」と表現し、「ジェンキンス元受刑者」と呼ぶところがなかったのも不思議なことである。出頭してからは「ジェンキンス元軍曹」と呼んでいたと思う。彼は釈放後、キャンプ座間で不名誉除隊の手続きを進めている。 「日米軍事同盟」を支持している日本の報道機関がまさか、米国の法律の正当性に異議を持っているわけではないだろう。 同僚のマネージャーを殴って告訴され罰金刑を受けた吉本興業の有名タレントに、「○○○○司会者・所属タレント」などという不思議な肩書きをつけているメディアが、米軍法会議で有罪が確定し服役した米国人に「さん」を付けるのは、二重基準と言わざるをえない。 囚人にも敬称を付けることにまったく異議はない。ジェンキンス氏だけに適用されていることが問題なのだ。 ジェンキンス氏は2日、基地を離れるための休暇許可をもらい、妻娘と共に一家4人で7日夜、曽我さんの故郷、新潟県佐渡市(佐渡島)に渡った。 曽我さん一家は7日午後8時、佐渡市でそろって記者会見に臨んだ。 朝日新聞によると、曽我ひとみさんは会見の中で、02年10月15日に帰国してからの家族3人との再会を待つ間の心情について、「1人で日本で暮らした日々の中で、家族に会いたくて、何もかも捨てて家族のいる北朝鮮に帰ってしまおうと思ったこともありました。夫の問題もあり、果たして家族が日本に帰ってきて暮らすことが本当に幸せなのだろうかと、いろんな事を考えました」「しかし北朝鮮を出ることだけが唯一、私の夫をアメリカに住むお母さんに会わせてあげる方法でした」と話した。 日本政府とメディアは、曽我さんが日本で暮らすことが幸せだと断言してきたが、当事者の彼女は、夫が脱走兵であることなどを考えていくつかの選択肢の中で苦悩していたのだ。 また、11月27日の読売新聞は「小泉外交」と題した連載記事「帰国急がせた核疑惑」で、02年1月15日に、曽我さんら5人の拉致被害者の帰国は、日朝政府間の約束では「二週間程度の『一時帰国』」だったことを明らかにしている。 この記事によると、当初、朝鮮側は「5人の家族を北朝鮮に呼び寄せる案を示していた。だが、日本側はこれを拒否し、2週間程度の『一時帰国』を認めさせた」という。その後、「帰国した5人について問題になったのは、5人を北朝鮮に戻すかどうかだった。日本政府内で激しい対立が起きた」と述べ、安倍晋三官房副長官と外務省の田中均アジア大洋州局長の間で激しい応酬があったと指摘している。 内閣府が作った5人の「行動予定表」には、北朝鮮に戻る前提で「土産の購入」が含まれていた。 しかし、安倍や中山恭子内閣官房参与の考えは違った。「5人は絶対に戻さない」という家族の思いをくみ、最初から5人を「永住」させる腹づもりだった。 10月24日午前、首相官邸の安倍の副長官執務室。田中が5人を北朝鮮に戻すよう主張すると、中山は「政府の責任で5人を戻さないと決めるべきだ」と訴えた。 激論が続いた。最後は安倍が引き取り、言い切った。 「5人を戻し、もし二度と日本に帰って来なかったら、内閣はもたない。選択肢はほかにない」 田中は、こう言い返すのが精いっぱいだった。 「反対はしないが、これでXのルートは死にます。5人の子どもらの帰国にも相当長い時間を要しますよ」 曽我さんの家族との再会が遅れた一因は、日本政府が朝鮮との約束を一方的に破ったことにあることがここでも確認できる。また、政府が曽我さんの意思を確認せずに、永住帰国を決めたことは明確になった。 ジェンキンス氏については、日本政府やテレビ文化人は、脱走ではなく拉致だったのではないかとか、司法取引で不名誉除隊が課せられるが実刑はないなどという何の根拠もない憶測記事をいっぱい書いてきた。報道機関は過去の記事のスクラップ、ニュース番組のビデオを検証してほしい。 異なる支援策 新潟県や佐渡市などの自治体は、曽我さん一家の仕事や学校を世話するという。拉致被害者支援法によって生活保障が行われる。世の中には無辜の市民が様々な犯罪に巻き込まれている。オウム真理教信者にサリンをまかれて後遺症を持つ人たちや、飲酒運転で殺されたり、通り魔に殺害された犯罪被害者や失業者らにとって、この特別扱いは気になるであろう。加害者が誰かによって支援策が異なるのは不適切だ。 犯罪被害者基本法が1日、国会で成立したが、具体的な支援策は決まっていない。拉致被害者を支援する仕組みをすべての犯罪被害者に適用してほしい。 朝鮮と日本の関係が最悪の状態を迎えた12月9日、サッカーの06年ワールドカップ最終予選で日本と朝鮮の対戦が決まり、日本政府は10日、朝鮮へ入国するサポーターへの支援などの態勢づくりに着手した。国際世論が両国関係の正常化を促しているのだと私は受け止める。(浅野健一、同志社大学教授)(見出しは編集部) [朝鮮新報 2004.12.11] |