〈月刊メディア批評〉 日朝正常化を妨害し続ける朝日資本 |
中山参与の辞任 朝鮮による日本人拉致の被害者と家族の支援を担当してきた中山恭子内閣官房参与は9月29日、首相官邸で小泉首相に会い、辞任する意向を伝え、首相は辞任を認めた。中山参与は会談で、02年9月の小泉首相訪朝後、当初は拉致被害者や家族が政府に抱いていた不信感が払拭されたことなどを理由に挙げたという。 朝日新聞は「拉致被害者や家族は、約2年間にわたって政府とのパイプ役を果たした中山氏に信頼を寄せており、『北朝鮮による拉致被害者家族連絡会』は同日、辞任しないよう求める声明を出した」と報じた。 翌日のテレビ朝日などのワイドショーは、中山氏が、拉致被害者を守るために「国と闘った」などと賞賛した。しかし、フジテレビは中山氏がかつて、「国家意思として(5人を朝鮮に)帰らせないように政府に求める」と発言した映像をオンエアした。5人を10日間前後で平壌に返すという国家間の約束があったことを認めたうえで、中山氏が国家の意思として永住帰国を強制させたことを明らかにした。 中山氏はその「上品」な声で、歴史修正主義者と手を結んだ「救う会」などの意向を受けて、日本国を動かしてきた。企業メディアは、その危険な本質を取材、報道せず、拉致被害者を支えてきたと報じた。公務員(人民の使用人)が国民のために働くのは当然ではないか。むしろ、中山氏が全国各地で講演した際の発言内容が適切かどうかなどを吟味すべきなのだ。 内政干渉発言繰り返す 小泉政権にはイラクへの自衛隊派兵、靖国参拝など極右、対米追随の政策に大きな問題があるが、41年にわたる朝鮮の強制占領の過去について認識して、任期中に正常化を目指す姿勢を私は高く評価している。 ところが朝日新聞を中心に日本の企業メディアは、いまだに「拉致問題の解決なしに日朝国交正常化するな」という姿勢を変えていない。「北朝鮮を変えなければ」という内政干渉発言を繰り返してきた朝日の9月17日付社説は「動いたもの、動かぬもの」「小泉訪朝2年」という見出しで、「拉致問題の重さを思えば、軽々に日朝交渉を進めることはできない」と断定した。 また9月29日の社説は「日朝協議−ごまかしは許さぬ」と題して、「日朝実務者協議の内容が明らかになるにつれて、拉致問題をめぐる北朝鮮の姿勢に疑念は募るばかりである」と指摘。 8人が「死亡した」経緯や、「新たに拉致の疑いが浮かんだ人々」についての問い合わせにも応じなかったと激しく非難して次のように書いた。 「北朝鮮が過去の拉致を謝罪し、日朝関係を正常化させたいと考えるなら、被害者のその後を誠実に調べ、その結果を日本側に伝えることが出発点だろう。時間稼ぎのような態度を続ければ、日本国内の経済制裁論が力を増し、それで苦境に追い込まれるのは北朝鮮自身だ」「任期中に日朝国交正常化をなし遂げたいと首相は言う。ならば、この再調査問題をまず動かさなければならない」 戦争への最終手段である「経済制裁」をちらつかしての脅しである。 拉致問題など両国間の諸問題について、国交正常化の過程で解決を目指すという政府の方針は当然ではないか。「国交がなかったから、不幸な拉致事件が起きた」と2年前、小泉首相は発言した。至言だと思う。 「報道倫理に反する」 拉致事件や万景峰号来航では、朝鮮政府に国際法や人権を遵守しろという日本のメディアは、朝鮮が日本メディアに著作権を守るように求めている問題では、ダブルスタンダードだ。 共同通信は8月10日、朝鮮の朝鮮中央テレビ(KRT)の映像を日本の放送局が使用する際、使用料を支払うよう朝鮮側が各社に打診、TBSなど一部の社が「報道への引用」以外について料金を払う方針を決めたことが分かったと突然報じた。朝日新聞などが後追い記事を書いた。 朝日の見出しは「北朝鮮、『使用料払え』 日本で放映の朝鮮中央テレビ映像」だった。「払え」という表現を見出しに選んだところにこの新聞社の姿勢が表れている。 日本のテレビ各局は、朝鮮中央テレビのオンエア映像を流し、金正日総書記らについて面白おかしく論評してきた。テレビ朝日の夕方の番組では定期的にオンエアしている。 私は昨年8月に訪朝した際、朝鮮中央テレビとラジオを運営管理する朝鮮中央放送委員会のチェ・チャンスン報道局長、リ・クァンチョル報道部長、リ・ヒョンチョル報道部記者の3人に会った。 チェ報道局長は、朝鮮が国際的な著作権保護を定めた「ベルヌ条約」に03年4月に加入したことを明らかにしたうえで、「日本の六大テレビ・ネットワークはどこも私たちの了解なしにニュース、ドラマ、映画などを衛星からとって無断で放映している。特にテレビ朝日はひどい。著作権侵害だ。在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)を通じて権利保護を求める」と述べた。 局長は、テレビ朝日は無許可で朝鮮中央テレビの放送を録画してオンエアしているだけでなく、悪質なねつ造までしていると訴えた。部長は「良心のある人間ならこんなひどいことはできない。報道倫理に違反している。同業者として非常に残念なことだ」と語った。 私はさまざまなメディアで、朝鮮中央テレビが、ワイドショーなどで衛星放送の映像を断りなく使ってきた日本のテレビ局に著作権使用料の支払いの要求をしていることを書いてきたが、1年以上もメディアは知らん顔だった。 日本の新聞報道によると、日本政府・文化庁は「国交がない北朝鮮が条約に加入しても、北朝鮮の著作物を保護する必要はない」と、支払う必要はないという立場で、テレビ各局はこの政府見解を盾に「使い放題」だったという。 外務省も「未承認国家との間で条約上の権利義務関係は生じない」とする解釈を示している。 国家や政府を監視するのが民主主義体制の国のメディアの主要な仕事のはずだ。日本に「報道の自由」はあるのだろうか。(中見出しは編集部)(浅野健一、同志社大学教授) [朝鮮新報 2004.10.7] |