「幻のロシア絵本1920−30年代展」、9月5日まで東京都庭園美術館で開催 |
1917年の革命を経たソヴィエト(ロシア)では1920〜30年代、新しい国づくりの理想に燃えた若い画家や詩人たちが絵本の制作に携わり、未来を担う子どもたちに大きな夢を託していた。粗末な紙に刷られ、ホッチキスで留めただけの薄い小冊子ながら、彼らの手による「新しい絵本」は、ユーモアにあふれたテキストと大胆かつ洗練された造形性により、パリやロンドンなどの諸外国でも注目の的となり、20世紀絵本の流れを方向付ける役割を果したという。 東京都港区の東京都庭園美術館では9月5日まで、「幻のロシア絵本1920−30年代展」(主催=同美術館、後援=ロシア連邦大使館、東京都教育委員会など)が開催されている。本展は当時、日本でもロシアの絵本に熱い視線を注いだ吉原治良の旧蔵品87冊を中心に、日本に現存する約250冊を一堂に集めた。 学芸員の中原淳行さんは同美術館ニュース(第18号)にこう記している。 「創作意欲に富んだ芸術家たちが全力で取り組んだ絵本には、どんな豪華な本にも負けない魅力的なセンスが隅々にまで息づいている」 この時代のロシアでは、わずか10年ほどの間にあらゆる種類の絵本が精力的に刊行された。新しい社会の現実に根ざした童話を創り、次代を担う子どもたちに正しい知識と来るべき未来への展望を与えようとする気運が急速に高まった時代。革命直後に「ロスタの窓」の政治宣伝ポスターを手がけ、視覚に強く訴える技を培ったレーベジェフは、その経験を活かしつつ、躍動感あふれる絵本を次々に送り出し、詩人のマルシャークは、ロシア民話の豊かな伝授を受け継ぎながら、新時代の到来を快活に謳い上げた。 「昔と今とはこんなに違う」という作品では、ランプやペンや水汲み桶が出番を失い、電灯やタイプライターや水道などの利器が普及する様子がユーモラスに描かれている。また、「勇敢で心優しい消防士」では、母親の留守中に火遊びをしたのが原因であっと言う間に炎が燃え上がり、消防隊の消火作業によって屋根裏部屋の子猫が無事救出される様をわかりやすく描いている。 革命後のソ連では、児童教育が国家的な急務としていち早く認識され、ピオネール(10〜15歳の少年少女の組織)活動が熱心に推し進められたが、そんな中作家たちは、おとぎ話の王子様や赤ずきんちゃんから離れ、街角や村々で暮らす同時代の子どもたちをリアルに形象化し、子どもたちに家庭や学校で遭遇するさまざまな出来事を通じて世の中の基本的な仕組みや社会生活のルールを教える役割を果した。 会場にはその他にも、「もの作り」の面白さを伝える「工作絵本」や働く人々を主人公に見据えた絵本、国内の少数民族に対する理解と同胞意識を育もうとする作品、自然の中で営まれる動物の生態を科学的に描写した絵本などが7つのセクション別に展示されている。 本展監修者の沼辺信一氏によるフロア・レクチャーでは、これらの作品を1点1点丁寧に見て回る。「今でもまったく古い感じがしない。これを約100年も前に創り出し、それを集めていた日本人がいたということに感心する。一流の作家たちが、子どもを単に子どもとして扱うのではなく、愛情と誠意を持って子どもという未来と真摯に向き合っていたということがとてもよくわかる」(沼辺さん)。 1932年のソ連共産党中央委員会で「文学、芸術団体の改組についての決議」が採択され、社会主義リアリズムが「国家公認の芸術表現」として定められる。本展はそれまでの10年間の「幻のロシア絵本」を展示したものである。 次回フロア・レクチャーは、31日午後2時から(来館者対象、無料)。 開館時間=10時〜18時。入館料=一般1000円、大学生800円、高校生・65歳以上500円、小・中学生無料。JR山手線、東急目黒線「目黒駅」(東口)から徒歩7分。TEL 03・3443・0201。(金潤順記者) [朝鮮新報 2004.8.23] |