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〈月刊メディア批評〉 日朝正常化を妨害する悪質なメディア

 人民が誤った方向に進もうとしているときに、勇気を持って警鐘を鳴らすのがジャーナリストの仕事だ。しかし、人民が健全な判断をしているときに、「意外だ」「理解できない」と繰り返して、隣国への敵意を煽っているのが日本の企業メディアである。

 しかも、その国は、日本がかつて41年にわたり侵略、強制占領して、民族丸ごと拉致=強制連行した朝鮮人民が建国した共和国である。

 小泉純一郎首相の朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への2度目の訪問に対して「世界の笑いものになった土下座外交」などという批判があったが、「拉致の解決なしに国交正常化交渉を再開するな」「人道支援もするべきではない」と繰り返すテレビ朝日を先頭とする日本の企業メディアこそ、国際的に孤立した非常識な団体だ。

 報道機関の世論調査では、小泉首相の第2次訪朝を支持する人が70%近くあった。国民の健全な感覚だと思う。ところが、この世論について、ニュースキャスターや一部極右政治家、文化人は「意外だ」「おかしい」などと論評した。

 「家族会」幹部は首相の帰国後、朝鮮の総書記を一貫して呼び捨てにして、「あの男は十人のことについて情報を持っているはずだ」などと決め付けた。「救う会」幹部は総書記を日本の漢字読みで呼び捨てにして、今回の首脳会談の成果を認めなかった。

 約5年前から「反北朝鮮」を煽る重村智計早大教授は、首相が帰国した翌日の5月23日、民放テレビで、「会談終了直後の調査だからこうなった。家族会の生の声などを聞いたら、支持は下がるはずだ」とコメントしていた。しかし、その後の世論調査でも過半数以上が第2回首脳会談を成功だったと評価している。御用文化人や偏向キャスターが家族会の怒りの声を繰り返し報道しても、世論は日朝の歩み寄りを歓迎している。

 NHKの報道は相変わらずだ。5月29日午前2時のNHKラジオ、ニュースはトップで「横田めぐみさんの両親が外国特派員協会で講演した」と伝えていた。前日未明にイラクで銃殺された日本人記者の関連ニュースはずっと後だった。拉致事件は重要なニュースだとしても、全国中継の頭でやるべきニュースだろうか。

 NHKによると、横田氏夫妻は、小泉首相の2度目の平壌訪問について、一昨年10月15日に帰国した拉致被害者の女性(45)の米国人の夫と子ども2人が「帰国」できなかったことや、行方不明者10人の安否の確認ができなかったのだから、最低の結果だと改めて強調したという。また、会見に出た外国特派員たちが「拉致事件の被害者家族を批判するのは、イラク人質事件の被害者へのバッシングと同じで、事件被害者への共感が足りないのではないか」「日本人拉致問題の深刻さを世界に伝えたい」などとコメントしたと伝えた。外国特派員の間で、それ以外の意見はなかったのだろうか。

 読売テレビの辛坊次郎キャスターは「拉致被害者の家族と、イラクでの人質事件の被害者の家族とは全く違う」と発言し、小泉首相に「あなたにはプライドはあるのか」と迫った家族を擁護した。イラクでの拘束事件の被害者を非難したのは適切だったという意味だろうが、あまりにも不勉強だ。

 5月29日午前の日本テレビでは、安部晋三自民党幹事長、重村智計早大教授らが出演した。2人は「日本政府はSさんを日本にとどめなければならない。日本へ返さないなら、第三国に行かせないと政府は事前に明言すべきだ」などと繰り返した。女性の一家4人の意思よりも、国家意思を優先させるべきだと言うのだ。これはまさに拉致=強制連行ではないか。2人は、女性を日本の臣民と見なし、市民として見ていない。地球上の誰にも国籍を選ぶ権利があることさえ理解できない。

 一昨年に日本へ戻った5人の拉致被害者は、本来は10日前後で朝鮮へ帰る約束だった。ところが、安部氏ら日本の極右政治家と右翼メディアは、「永住帰国」を決め、5人に事実上強制した。朝鮮との約束違反だ。

 家族会の蓮池透氏は、小泉首相の再訪翌日午前のテレビ朝日の番組で、「(拉致被害者の)弟が帰国したときのメモをあらためて読んだが、『おみやげを買って帰る』と書いてあった」「5人みんなが平壌で指導員らに、日本へは短期間の滞在だと言われていた」などと語った。

 被害者の多くが、自分たちの「帰国」はもともと一時帰国で、すぐに朝鮮に戻るつもりだったことを明らかにしてきた。日本政府が朝鮮との一時帰国という約束を破ったことは明白だ。だからこそ、小泉首相が再び平壌に出かけたのだろうと思う。

 日本政府が5人を帰さなかったのは、「北が無法の国」(安倍氏)だからという理由だった。拉致事件をきっかけに偏狭なナショナリズムを挑発し、金正日独裁体制を打倒することを目的化した極右団体の広報を務めて、朝鮮蔑視の世論を煽動してきた極右政治家やメディア幹部の責任は重大だ。

 「週刊金曜日」5月28日号の「金曜日から」に、「小泉首相の再訪朝の政治決断は、今後の正常化の進展によって評価するしかない」という見解が載っているが、そうだろうか。

 再訪朝があったからこそ日朝国交正常化交渉を再開されることができたのだと思う。

 日本共産党は小泉首相の帰国直後に、「『日朝平壌宣言』が、日朝関係の基礎として再確認され、(略)国交正常化交渉への前進の方向が確認されたことを歓迎する。(略)北東アジアの平和と安定を実現するうえでも、重要な一歩となる」などという市田書記局長談話を発表した。共産党が小泉首相の政策を支持することは珍しいが、私はこの談話に全面的に賛同する。

 首相の訪朝に、自らの年金問題、有事関連法案などへの批判をそらす目的があったことは間違いないだろうが、国交正常化を望む両国の人民の努力によって、歴史的な成果を生み出したと私は思う。

 日本の主要企業メディアは、相も変わらず、「拉致」と「核」だけを取り上げて、過去の国家犯罪についての「国家無答責」である日本の政府と国民について全く論評していない。

 「拉致問題の解決なしの国交正常化交渉はすべでない」としか言わないメディア人は犯罪的である。拉致問題も含め両国間の諸問題は正常化の課程で解決することになっているし、両国の国交が樹立すれば、双方の外交ルートを通じて着実に解決すべきだ。

 小泉首相は5月27日の参院イラク復興支援、有事法制特別委員会で、金正日総書記の人物像について聞かれたのに対して、「実際会って話してみれば穏やかで快活、冗談も飛ばす」「頭の展開の速い人だなと思っている」と論評した。首相は「信頼関係を結べるか」との質問には「信頼関係を醸成しないと率直な話し合いができない。信頼できる、できないにかかわらず、交渉していかなくてはならない相手だ」と述べた。 

 小泉首相は5月28日から2日間開かれた朝鮮総連第20回全体大会に自民党総裁として初めて祝賀メッセージを送った。朝鮮側は首脳会談で、正常化交渉の席に朝鮮総連代表も参加させたいと表明した。

 これについて重村教授は5月30日午前のフジテレビ番組で、「実に軽率」と非難、「来年ならいいが今年はだめだ」と述べた。朝鮮総連の全体大会は3年に1回しかないことも知らない人が早大教授を務めているのだ。(浅野健一、同志社大学教授)

[朝鮮新報 2004.6.11]