〈月刊メディア批評〉 予断と偏見に満ちた朝日新聞報道 |
朝鮮の金正日総書記が4月18日夜に国境を越えて19日に北京に入り、21日北京を離れた。金総書記は19日の胡錦涛・中国国家主席との首脳会談で「非核化の最終目標を堅持し、対話を通じた平和的解決を追求する我々の基本的立場には変化がない」と述べた。 総書記は温家宝首相や江沢民中央軍事委主席ら中国指導部と連日友好的に会談した。 朝鮮の核などについて協議する6カ国協議の議長国である中国への総書記の4年ぶりの訪問は、国際社会で歓迎された。 ところが、「拉致」問題で極右勢力と二人三脚で反朝鮮世論を扇動してきた日本の企業メディアは、この成果を素直に喜ばない。 日本を代表する「高級紙」と言われ、社会科学に無知な日本の右翼が「左翼的」と勘違いしている朝日新聞の報道を見てみよう。4月21日、北京発で栗原健太郎、塚本和人両記者は、「金総書記の動静は前日に続き、伏せられたまま。北京市の中心部では突然車線が規制され、高級車の列が猛スピードで走り去る。ものものしい警備のなか、今どき珍しい『秘密外交』が続いている」などと訪中が「非公式」だと強調した。 中国など社会主義国では、首脳会談がリアルタイムで報道されないことが珍しくない。日本でも、公表されない会談はある。朝鮮と中国は総書記の訪問が終了した段階で公表すると表明していたし、実際に詳しく映像つきで報道された。 朝日新聞は4月23日、「『お忍び』が終わって 中朝会談」という題の社説で次のように論じた。書き出しは「北朝鮮の金正日総書記の『秘密訪中』が終わった」で、「北京のレストランから出てきたところを外国メディアによって撮影された以外は、2泊3日の金氏の動静は闇に包まれたままだった。ひと昔前の中国ならともかく、開放政策と清新さを売り物にする胡錦涛国家主席は、こんな時代錯誤の外交はしたくなかったに違いない。」と書いた。 後は、朝鮮の「核」に対する朝日の予断と偏見に満ちた社論の展開だ。最後に、今後の6者協議を展望して、「検証可能で後戻りできない形での核開発の完全放棄を求めてきた日米韓にとっては、『非核兵器化』なら、という金氏の表明ひとつとっても受け入れがたい。核の平和利用を表向きの理由に、核兵器の開発を進めてきた北朝鮮への不信がぬぐえないからだ。」「北朝鮮がこれ以上核開発を進められるような時間を与えてはならないからだ」などと結んでいる。 まさに米国の言いなりの首相をいただく国の偏向新聞である。日本の過去の朝鮮侵略の歴史と、「日米」がいま東アジアの平和と安定の脅威になっていることを忘却した反動新聞である。 朝日新聞から役員が送り込まれているテレビ朝日も相変わらずの「反朝鮮」報道を続けている。4月22日午前のテレビ朝日のワイドショー「モーニング」を見たら、おどろおどろしいBGMを入れて金総書記の「隠密旅行」を長々と伝えた。最高級の北京ダックを食べたとか、高級車を連ねてのグルメ旅行だとか言いたい放題だ。総書記の映像を独占キャッチしたとかの自慢もあった。 映像に出た北京ダックの店は、私も食べたことがある店で、小泉首相や福田官房長官がお気に入りの東京都内の超高級飲食店とは違う。 後半は、評論家と称する歳川隆夫氏(元新左翼活動家)と重村智計早稲田大学教授らが登場して、金総書記に朴奉珠首相、姜錫柱第一外務次官、金永春朝鮮人民軍総参謀長らが同行したのは、経済問題が深刻だからだと解説した。国家元首の外国訪問に指導部のトップが随行するのはごく普通のことだ。 「核」問題で朝鮮側は核兵器しか言っていないとも非難したが、どうして朝鮮だけが核の平和利用をしてはならないのかを一度でも考えたほうがいい。原発、プルトニウム大国の日本がそういう資格などない。世界一の核兵器を所有する米国軍隊が駐留しているうちに、日本のメディア関係者は正常な感覚を失ってしまった。曇った色つきのメガネで見るから、すべて的外れになってしまう。 司会役の渡辺アナウンサーは得意げに、「経済が行き詰っている」「国際的に孤立を深めている」などと勝手なことを言っていたので、「いつまで隣国を中傷する報道を続けるのか」とテレビ朝日に電話で抗議した。 アジアや世界の中で孤立化を深めているのは日本ではないか。憲法と自衛隊法に違反して軍隊を派遣してアラブ諸国の反発を招いている。また、小泉首相の靖国参拝強行によって、日中首脳の相互訪問がいつ実現するかの目途さえ立っていない。非公式でも隠密でも、首脳の訪問ができない状態を深刻に考えたほうがいい。 朝日新聞系メディアは、何とか朝鮮と中国の「きしみ」を熱望しているが、両国の関係は密接、友好的だ。朝鮮西北部、平安北道の町リョンチョン(龍川)で大規模な爆発事故が発生し、甚大な被害が出ているが、「中華人民共和国贈」と大きく書いたトラックが何台も朝鮮へ渡る映像が日本でも流れた。 朝日新聞など日本のメディア界が今すぐやらなければならないのは、子どもたちも含めた被害者を救援する動きを日本の中に作り出すことだ。募金活動などを呼びかけてもらいたい。(浅野健一、同志社大学教授) [朝鮮新報 2004.5.12] |