「戦争とジェンダー」と題する講演会で小森陽一東京大学教授が講演 |
「戦争とジェンダー」と題する講演会が10日、御茶の水女子大学で行われ、小森陽一東大教授が講演した。 小森教授は日本近代文学専攻。近著に今年開戦から100年を迎える日露戦争を検証した「日露戦争スタディーズ」(小森陽一、成田龍一編著 紀伊國屋書店2200円+税)がある。 小森教授は上野千鶴子東大教授の著書「ナショナリズムとジェンダー」を紹介しながら、女性が近代国民国家の「国民化」の過程で、戦争に総動員されていった点について触れて、ジェシカ・リンチ事件の報道を取り上げた。 小森教授によれば大義なきイラク戦争の遂行の過程で、米国防総省が「英雄」を渇望していたことは想像に難くないとして、「戦争の美談を作り上げ、国民を熱狂させるうえでジェシカ・リンチはまさに国防総省やカタールに置かれていた米中央軍司令部が探し求めていた『人材』に違いない」と述べた。 「いつの時代でも、どの国の戦争でも、戦争には『英雄』が必要だ。英雄の勇気、不屈の精神、自己犠牲の精神は兵士ばかりでなく、銃後で戦争を支える国民の精神を高揚させ、…兵士の中から英雄が出現すれば、国民や兵士、うまくゆけば国際世論も大義のことを忘れて支持してくれるかも知れない。少なくとも一時的には…」 なぜ、ジェシカが「英雄」に選ばれ、イラク戦争で最初に戦死した女性兵士ではなかったのかという疑問について小森教授は戦死した女性兵士がアメリカ先住民であった事実にふれ、「米国は先住民を殺してできた国。米国の人種編成の問題から彼女を英雄に作りあげることはできなかった」と明快に指摘した。ジェシカのありもしない救出劇、兵士を遠くから撮影するカメラ。テレビ局が「迫真の映像」と称して、ヤラセ風の撮影をするシーンもテレビを通じて全世界に流れた。まんまとブッシュは国民の熱狂を作り上げることに成功したかに見えたが……。しかし、ジェシカは帰還後米軍の演出を拒み、そのでっちあげを告発する本「私は英雄じゃない」を出版したのだ。 小森教授は「第2国民」としての女性を戦争に動員していった過程、そして、国家が戦争を遂行するためにどんなことをするのか、自衛隊のイラク派兵の問題点を鋭く抉り出した。 小森教授は日露戦争においても早くも広範囲のメディアの動員が行われたことに触れ、いわゆる軍神広瀬中佐の話は旅順港閉塞作戦の失敗を糊塗するために軍首脳部が考え出した目くらましだったと、指摘した。 「この作戦の指揮官だった広瀬中佐はまず作戦そのものに失敗し、つぎに不用意に部下を捜しに船に戻って撤退の時期を逸し、その結果、部下3人と共に戦死した。これが事実なのに、軍とメディアは広瀬は部下思いの故に死に至ったという美談を作りあげ、ひたすら国民を戦争動員へと煽っていったのだ」 さらに小森教授は日本の女性誌の自衛隊イラク派兵キャンペーン、とくに現役「自衛隊員の妻」の名で行われているまやかし報道について問題点を列挙して批判した。 小森教授の講演は、20世紀初頭からイラク戦争まで支配層が大衆の目から真実を隠す手法を巧妙に構築してきたことを分かり易く紐解いた。そして、国民国家が近代産業資本主義と封建的家父長制をベースに成立したことを振り返りながら、国民国家の下で、本当の意味で男女平等がありえるのかと問いかけた。(朴日粉記者) [朝鮮新報 2004.3.24] |