法政大学大学院主催のシンポジウムで南の作家黄ル暎氏が講演 |
法政大学大学院人文科学研究科国際文化専攻開設記念シンポジウムが1月30日、法政大学ボアソナードタワー26階、スカイホールで開催された。テーマは「グローバリゼーションと『わたしたち』の文化」。 今回のシンポはグローバリゼーションの問題を「地域」の視点から見極め、解決にはどのような取り組みが考えられるのかをめぐって問題提起と討論が行われた。 基調講演に立ったのは、行動する南朝鮮の作家黄ル暎氏である。同氏は「わたしの最近の作品をもとに考えたこと」と題して行った。 黄氏は、悲痛な80年代の社会闘争、訪北、米、独への亡命、そして投獄など自身の実体験を交えながら自作品の概要を語った。南北に分断されている朝鮮半島の現実、アメリカの戦争責任、また「韓国」社会が抱え込む問題点など多種多様な話を展開した。 黄氏は戦争というものは、人間を大量殺戮するための実験台だったとして、ベトナム戦争での従軍体験を語りながら、ジュネーブ協定に違反して米軍がナパーム弾や枯葉剤などの大量破壊兵器を投入し大量に人間を殺傷したこと、さらに朝鮮戦争では米軍が日本軍から引き継いだ細菌兵器を大量に使用した事実を挙げ、米軍の戦争犯罪の凄まじい実態に触れた。 黄氏によると、朝鮮戦争時に使用されたペスト菌被害によって今でも南朝鮮各地では流行性出血熱や原因がはっきりしない風土病などが発生し、戦争後半世紀が過ぎた今でも、郊外に子どもを連れて遊びに行ってはならないと広報される地域があるという。 さらに黄氏は2年前に出版された自作「客人」(日本語訳は岩波書店から4月刊行)について触れた。 この小説の舞台は38度線の北側に位置する黄海南道の信川。この町に現在「米帝良民虐殺記念博物館」があり、ここには人間の毛髪、焼けた靴や衣服など朝鮮戦争中に虐殺された死者の遺品が陳列されており、アウシュヴィッツのように戦争の残忍さを告発している。 小説「客人」は、これまでは侵入してきた米軍が3万5000人もの罪のない一般の住民を最も残忍な野獣的な方法で集団虐殺した張本人だと信じられていたが、実際には朝鮮戦争下、米軍の庇護の下に、キリスト教青年団を中核とする反共右翼勢力の手によってなされた虐殺であることを告発している。鄭敬謨氏をして「学術書であれ文学書であれ、朝鮮戦争を描いた記述の中でも、その惨劇をこれほど鋭く抉り出したものは他に類例がない」と言わしめた卓越した作品。 黄氏はこの作品を刊行した理由について、信川で悪逆の限りを尽くしながら、「越南」し何食わぬ顔をして今も各界で隠然たる勢力を保って生き続ける者たちに触れながら、「決して過去からは自由にならない」と述べ、歴史に立ち向かい、「人間の時間を取り戻さねばならない」と語った。 また、拉致問題に対し、「許すことのできない犯罪行為だ」と語りながらも、「相手に対する批判とともに、自分に対する批判も重要だ」と日本による過去の植民地支配を忘れ去ったかのような、常軌を逸した日本における「北朝鮮バッシング」に「大衆を煽動してはならない」と警鐘を鳴らした。今後は、朝鮮の分断の克服と平和の構想を柱とする東アジアのパラダイムの転換をはかりながら、その中での祖国統一を考えていく必要性を説いた。 黄氏は、昨今の現状を憂慮しながら、「たたかうのではなく、抱え込む」ことが重要だと主張する。 続いて行われたパネルディスカッションでは、フリーライターの安里英子氏、東京大学名誉教授、東京経済大学名誉教授の板垣雄三氏、千葉大学教授の南塚信吾氏なども加わった。安里氏は沖縄問題から、板垣氏はイスラームの視点から、また南塚氏は東欧の観点からなど、個々の専門分野から見た欧米式グローバリゼーションの問題性を話し合った。(鄭茂憲記者) [朝鮮新報 2004.2.11] |