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〈月刊メディア批評〉 正月早々から「反北朝鮮」を煽る日本メディア

 マスメディアの任務は、社会の中から差別や偏見をなくし、平和を創出することなのに、日本のメディア企業は、日朝関係の取材、報道で正反対のことをしている。

 正月早々発行される「週刊ポスト」は朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)元首の姓名を呼び捨てにして、《生け捕りせよ》という大見出しを新聞広告、電車の中吊り広告に掲げている。

 1月5日の毎日新聞によると、毎日が昨年12月に実施した「外交と安全保障に関する全国世論調査」の結果、「『脅威を感じる国』を5カ国の中から選んでもらったところ、北朝鮮と回答した人が最多の50%を占めた。国際社会が北朝鮮に対して今年も食糧支援を続けるべきかどうかの質問では、『やめるべきだ』が64%と多数を占め、『続けるべきだ』の26%を大きく上回った」というのだ。

 日本が支援をするかどうかではなく、「国際社会」が支援を継続すべきかと問われて、国民の3分の2が「中止せよ」というのだ。かつて41年にわたる強制占領で残虐非道なことをした隣国の人民が、自然災害や米国の約束不履行によって、飢えで苦しんでいるのに、それでも助けるなという世論ができあがった。日本という国の残酷さに身震いがする。

 NHKは1月4日午後のニュースで、「『北朝鮮制裁』法整備で一致」というキャプションで、「同日放送されたNHKの番組『日曜討論』で、自民党の安倍幹事長と民主党の菅代表は、今度の通常国会で、日本が独自の判断で北朝鮮への貿易や送金を停止できるようにする法案の成立を図るべきだという認識で一致しました」とトップで報じていた。

 このニュースは新聞では報じられなかった。安倍、菅両氏は前から同じ不当な発言を繰り返しており、ニュースではないからだ。ある国に経済制裁をというのは、戦争に入る直前の最後通告みたいなものだ。自衛隊のイラク派兵は、日本の朝鮮再侵略の予行演習だと私はみている。国民の多くもそれを認めている。この日本国家の暴走について、ほとんどの知識人も沈黙している。民衆ファシズムの時代である。

 防衛庁の幹部たちは、「イラクで命を張る大義」を「しかばねを乗り越えてこそ、初めて自衛隊は一人前になれる」(昨年12月28日の朝日新聞の若宮啓文論説主幹「風考計」)と説いているという。大変な事態なのに、メディアにも大学にも危機感がない。

 なぜ日本国民がこれほどまで朝鮮を敵視し、憲法が蹂躙されるのかを考えるとき、メディアが主犯だと言わざるを得ない。特に、これまでは護憲の立場だった毎日新聞の変節が大きい。

 毎日新聞が昨年12月29日から始めた「平和立国の試練 第2部 北朝鮮を読む」の第1回目の記事(1面トップ)は、「『金総書記が激怒』 拉致告白に成果なく」などの見出しを掲げた。昨年末、米ニューヨークで開かれた会合に出た朝鮮外務省の李根米州局副局長が、「日朝首脳会談で拉致を告白したのに日本との交渉が進まないことについて、総書記が『戦術ミスだ』と激怒している。(朝鮮外務省の)日本担当はしょげ返り、我々米国担当の立場が強まっている。今が交渉のチャンスだ」と米政府関係者に耳打ちしたという記事だ。

 この記事には、副局長発言の情報源が明示されていない。「耳打ち」をどこの誰が聞いたのか分からない。毎日新聞は会合場所に盗聴器でも仕掛けたのだろうか。

 記事は「李氏の『告白』は、金総書記の名前を持ち出して米朝対話実現を求める苦肉の外交戦略だった可能性が強い」などと論を進める。見てきたような何とかだ。ありそうな話ではある。しかし、情報源を隠し、予めストーリーをつくって好き勝手に書くのでは三流雑誌以下である。

 私は昨年夏、朝鮮で取材した際、日本担当の当局者に会い、「拉致」問題について詳しく聞いたが、毎日記事のような話は聞かなかった。

 朝鮮の人たちは、「かつて朝鮮民族を拉致、強制連行した日本の国民が拉致問題でこれほどヒステリックに国粋主義化するという予測をしていなかった」という反応だった。したがって、総書記が日本担当者に激怒するということはないと思う。そもそも総書記が外務省当局者を呼んで叱るなどということはあり得ない。拉致事件についての謝罪表明の決定は、朝鮮のトップの決断であり、外務省の日本担当が決めるレベルのことではないと思う。常識的に考えてみれば、簡単に分かることが、朝鮮問題では分からなくなる。

 それにしても、最近の毎日新聞はどうしたのか。私は学生時代からリベラルな毎日新聞が好きで、経営的に苦しいこともあり、友人に購読をすすめてきた。しかし、数年前から、読売や産経と変わらないような記事が大きく載ることがある。

 例えば、昨年12月17日の毎日の「余録」は、後半でこう書いた。 「戦前日本の拡張主義と戦後日本の一国平和主義は、その国家的利己主義という点で同根ではないか。そんな国際社会の批判の目を浴びた湾岸戦争のトラウマ(心の傷)が、その後の日本の対外姿勢をひそかに拘束してきたように思える。自衛隊派遣の決断もそのトラウマと無縁でなかろう。」

 「国際社会の批判の目を浴びた湾岸戦争のトラウマ」というのは、自民党と外務省のタカ派がでっちあげたデマである。日本が湾岸戦争で自衛隊を派兵しなかったことについて、海外の人たちから批判されたことはない。

 また、12月14日の毎日新聞は田中明彦東大教授の論文を載せた。彼は「果たして集団的自衛権は憲法違反か」と述べて、小泉首相が憲法前文を引用して、自衛隊のイラク派兵を正当化したことを完全に擁護した。ファシズムの時代に現れる詐欺師の言説を無批判に垂れ流す毎日の知的荒廃ぶりを残念に思う。

 小泉首相は1日付で発表した年頭所感で、自衛隊のイラク派兵方針に変わりがない考えを強調し、皇居での「新年祝賀の儀」に出た後、羽織はかま姿で靖国神社に参拝した。

 「公約を守れなくてもたいしたことではない」と国会で言い放つ首相が、靖国参拝の公約だけは4年連続で順守した。米国に軍事的に追随することと、靖国参拝だけは、何が何でも強行するのには、わけがありそうだ。国内の極右勢力と米当局に脅されているのか、従わなければならない事情があるとかしか思えない。

 ところが、首相の参拝を伝えた毎日は、中韓など外国からの批判だけを取り上げ、憲法違反であることや国内に反対の声が多数あることをほとんど伝えていない。

 小泉政権は、今月下旬から、首相の“私兵”である陸上自衛隊の派兵を強行しようとしている。毎日をはじめとする報道機関の記者たちがエンベッド(埋め込み)されて、従軍する。昨年12月26日の航空自衛隊先遣隊の出発の際に、防衛庁当局と防衛庁記者クラブは、「隊員が乗る航空機の便名などを報じない」「隊員の顔を写さない」などの取り決めをした。記者の主要な仕事は権力を監視することだ、というジャーナリズムの原点を思い出してほしいと願う。(浅野健一、同志社大学教授)

[朝鮮新報 2004.1.16]