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〈先軍政治の今-上-〉 手段、原料確保自力で

 金日成主席死去後のこの10年間、金正日総書記が展開してきた先軍政治。先軍政治とは一言で、自力更生、刻苦奮闘など軍隊の気風をモデルにしながら軍人を中心に全般的な社会主義建設を推し進めるというもの(98年1月に体系化)。95〜00年までの「苦難の行軍」時、食糧難などさまざまな困難が積み重なり犠牲者を出した。さらにその機に乗じた米国による瓦解工作。そうした厳しい状況を先軍政治で乗り越えた朝鮮は、その後02年7月1日の経済管理体系改善措置によって人民生活も落ち着きを取り戻しつつある。先軍政治がどのように根づき実りを上げているのか、限定的ではあるが、この3カ月間に見聞きしたことをもとに整理してみた。

組合で粉砕機製作

船橋織物工場では、生産がほぼ正常化している。今年後半には原料が大量に入ってくる予定で、さらに多くの製品が生産される

 「私たちが『苦難の行軍』の時期に身を持って感じたことは、他力本願ではいけないということ。困難にぶつかった時、なにもかもあきらめて座り込んでしまっていたら、私たちはあの苦しかった時代を勝ち抜くことはできなかったでしょう」

 約150人の従業員が働く紋繍食料生産協同組合のケ・ヘウン支配人(49)は、当時を振り返りながらこう述べた。

 同組合は、自らが所有する平壌市郊外の農場で生産されたとうもろこしを原料に冷麺を生産している。そのほかにも、飴やカステラなどの菓子類、どんぐりを原料にした焼酎、そして果実酒なども生産している。これらの原料もすべて国内産だ。

 組合が運営する工場は国営ではないため、国からの援助はない。ましてや95、96年当時は、国営工場ですら国からの援助はほとんど受けられなかった。そんな状況の中、組合では市民たちの食問題を少しでも解決しようと、冷麺生産量を増やすためにとうもろこしの粉砕機を自力で考案、製作した。

 とうもろこしは、他の植物と比べて繊維質が多いため、完全な粉末状態にするには従来の粉砕機では不十分だったからだ。

 粉砕機を製作したのは、同組合の労働者(技能工)と技術者(修理工)。「見栄えはしないが、性能的には世界最先端をいく」とケ支配人。

 粉砕機の製作に成功したことにより、量はもとより冷麺の質も格段にアップした。

 同組合の全生産量(一日6トン)の9割は、平壌市大同江区域の住民のために消費される。残りの1割は、市内の外貨専門商店(各所にあり、外貨を持っている人なら誰でも購入可)に卸している。質の良さが好評で、売り上げは伸びているという。

 「稼いだ外貨で、増産のために必要な現代的な設備を購入してさらに工場を発展させ、ゆくゆくは供給の範囲を他の区域にも広げると共にとうもろこし冷麺市場を独占したい」というのがケ支配人の構想だ。

無から有を創造

 朝鮮では、国家政策に基づいて重要なプロジェクトを推進する時、「肯定感化」という手法を取る。モデルケースを作り、それを広く一般化していく。金正日総書記が現地指導する工場や企業所は、この手法に基づいてそれぞれの分野で成果を収めているところである。

平壌靴工場のビニール長靴を生産する職場。中国製より質がよく、市場では中国のものより高価で売られている

 昨年8月5日、総書記は船橋織物工場(平壌市船橋区域)を現地指導した。

 同工場は、主に成人用下着を年間700万着生産している。「苦難の行軍」の時から現在まで1年も欠かさず年間計画を超過達成してきた。

 チョ・ソンハン支配人(43)は、「わが工場の生産量で、平壌市民の需要を基本的に満たすことができる。下着以外にも成人用と子ども用のセーターなどを作り、中国や東南アジア諸国に輸出している。デザインが良く質もいいと評判のようだ」と微笑んだ。

 同様に、平壌靴工場で生産されているビニール長靴も、中国製のものより質が良いと人気だ。

 工場はまだフル稼動していないが、それが実現すれば、国内市場において中国製品を凌駕できると関係者は自信満々だ。

 船橋織物工場は、原料を中国や東南アジアから仕入れている。平壌靴工場も以前は中国からビニールを輸入していたが、近年国内で生産されるビニールの質が向上したため、国内産に転換しつつあるという。

 両工場に共通するのは、「すべてのことを自力で解決している」ということだ。「無から有を創造」した工場なのである。

 しかし、ここでいう「無」とは、「無いと思われていたものを再度検証し、予備を探し出してフルに活用する」ということであり、総書記の意図する自力更生のモデルケースということだ。

月給1万2千ウォンも

 船橋織物工場と平壌靴工場は現在、「モデル単位」に選定されている。生産量、値はもちろん従業員の待遇面においても、全国の工場のモデルとなっている。

 船橋織物工場の場合、従業員の平均月給は4000ウォン。「今年中に3〜5倍に引き上げる見通し」(チョ支配人)だそうだ。

 同じく、「モデル単位」に指定されている電線用ケーブルを生産している3月26日工場は、その3倍の1万2000ウォンになる。そのうえコメやしょうゆ、味噌など生活に欠かせない基礎的な食糧が工場から別途供給されている。

 自力で工場を正常稼動させ、質の高い製品を作り出し、収益を上げ、その収益は働きに応じて分配する−先軍政治は着実に浸透している。(李松鶴記者)

[朝鮮新報 2004.7.20]