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〈同胞法律・生活センターF〉 社会保障概要

 社会保障制度とは、人の一生涯にわたり、病気やケガを負ったとき、あるいは高齢、失業などにより収入が減少したり無くなったりするなど、生活が困難な状況に陥った場合に、社会全体で健やかで安心できる生活を保障するしくみのことを言います。

 1880年代にドイツのビスマルク宰相が社会保険制度を導入したのをきっかけに、ヨーロッパ各国がこれを取り入れたのは20世紀に入ってからのことです。社会保障制度の原点と言われ、またかの有名な「ゆりかごから墓場まで」という文言が使われたイギリスのベバリッジ報告(1942年)も、社会保険を中核に据えた社会保障制度を提案しています。度の基本的考え方です。

第2次大戦後に制度化

 日本の社会保障制度は右記のベバリッジ報告の影響を強く受けていると言われ、戦後日本国憲法の下に制度化され、その規模や適用範囲が拡大されてきました。

 日本の社会保障制度は、@生活保護など生活困窮者に健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるようにするための所得保障、A健康保険、年金保険、介護保険、労働災害保険など、原則として加入者の負担によって給付がまかなわれる医療保障(社会保険)、B児童、障害者、高齢者、母子家庭などが社会生活を営むのに必要な能力の育成、回復、補強のために、一定の経済的、人的サービスを提供する社会福祉、C結核予防や栄養改善などを行う公衆衛生、D老後の健康の維持と適切な医療を保障するため総合的な保険医療サービスを提供する老人保険、などの仕組みに分かれています。

「国籍」を理由に除外

 私たち在日同胞は、「国籍」を理由に長い間排除されてきました。説明するまでもなく、1945年の祖国解放後より直ちに「外国人登録令」と「出入国管理令」によって治安管理の対象とされ、在日同胞は解放人民でありまた日本の植民地被害者であるにもかかわらず全くの無権利状態におかれました。「外国人」として一切の社会保障制度より排除されていたのですが、唯一、適用対象とされていたのが、意外にも「生活保護」だったのです。

 1946年に制定された「旧生活保護法」は「衛生と管理」を本来の目的としていたため、「国籍条項」がなく、同胞にも適用されました。翌1947年の「外国人登録令」により在日同胞が「当分の間…外国人とみな」されることとなったものの、朝鮮・台湾などの旧植民地出身者についての「生活保護」の適用は、外国人登録をした者に限られ、外登証の呈示により申請や不服申立てができました。このような取扱いは、1950年に現在の「国籍条項」が設けられた「生活保護法」が制定された後も同様でした。ところが、1952年のサンフランシスコ講和条約により、在日同胞は「外国人」として、「国籍条項」により「生活保護法」から排除されることになったのです。さらにその後の1954年5月の厚生省社会局長通知「生活に困窮する外国人にたいする生活保護の措置について」により、同胞をはじめとする外国人はあくまでも「準用による保護」という形で、「保護してもよい」とされました。しかもこの「準用による保護」は、行政による「措置」であって権利ではないという、極めて不当なものだったのです。※このような取り扱いは今なお続いており、現在の福祉6法(生活保護法、児童福祉法、母子及び寡婦福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法)の中で、唯一「国籍条項」があるのは「生活保護法」のみです。

 戦後の混乱と民族差別の中でとりわけ困窮を極めた在日同胞の中には生活保護の申請を求める人たちも少なく無かったようです。そのため日本政府の財政的負担が増加することを避けるために、在日同胞の帰国事業を後押ししていたということも最近になってわかりました。実際のところ、1982年まで「入管法」では、生活保護受給者などは「公共負担者」ということで、退去強制の対象と見なしていました。

人権尊重とは言えず

 日本政府は「国籍」を理由に徹底して在日同胞を排除してきましたが、1979年の国際人権規約、1982年の難民条約を批准することにより、ようやく社会保障制度における「国籍条項」を撤廃しました。しかしこれは、当時のベトナム戦争に因る難民の受け入れを日本政府が国際社会より強力に迫られていたことが背景にあり、在日同胞をはじめとする外国人の人権尊重のためではなかったのです。その証拠に、上記の国際条約の批准により在日同胞も国民年金制度に加入できるようにはなったものの、一部の高齢者(1926年4月1日以前に生まれた同胞)と障害者(1962年4月1日以前に生まれた同胞)が除外されるという「無年金問題」が生じています。

 日本政府は、これまで沖縄・小笠原諸島の返還により、また中国残留帰国者らについては救済措置をとりましたが、在日同胞については一切そのような措置をとっていません。ここにも日本の対在日朝鮮人政策をかいま見ることができます。

 現在、「無年金問題」は当事者らのねばり強い裁判闘争が行われていますが、同胞社会全体で支援していかなければならないと思います。(金静寅、NPO法人同胞法律・生活センター事務局長)

[朝鮮新報 2004.12.7]