〈同胞法律・生活センターB〉 住まいに関するこんなトラブルA |
Q 結婚と同時に2DKのアパートに入居しました。新婚当初は良かったのですが、子どもが産まれ何かと家財道具も増え、来年には2人目も産まれます。そこで思い切ってもう少し広いアパートに引っ越すことになったのですが、大家さんから「敷金30万円のうちから、原状回復のための修繕費用26万円を差し引きます」と言われました。1年8カ月しか住んでいないし、子どもも赤ちゃんなので、とくに修繕が必要なところはないと思われ、納得がいきません。私としては、室内クリーニングの実費3万円を引いた27万円は返してもらいたいのです。どうすればよいでしょうか? A 東京都都市整備局の資料によると、東京都に居住する世帯の4割にあたる約205万世帯が民間の賃貸住宅で暮らしているとのことです。人口の移動が激しい東京などの大都会では、民間の賃貸住宅はそこに暮らす人々にとって非常に重要な問題です。それだけに不動産業者や大家さんと借り手との間のトラブルも多く、契約の更新、家賃の値上げ、入居中の管理、修繕などその内容もさまざまです。その中でも、この相談のように退去時の敷金の返還をめぐるものも少なくありません。 そもそも敷金とは、賃貸借契約により生じる借り手の側のあらゆる債務、たとえば家賃の未払いや借家を毀損した場合などを担保する目的で、借り手から家主に預けられる金銭のことです。通常の賃貸借契約では、借り手は入居の際にこの敷金を家主に支払い、退去の際には賃借した物件を「原状回復」して明け渡し、そして敷金の返還を請求することになります。ここで問題となるのが、この「原状回復」です。 「原状回復」は、借り手が故意や過失によって汚したり、破損した部分をもとの状態に戻すということなのですが、この「もとの状態」が借りての入居前の状態、すなわち歳月の経過による老朽や変色、通常の使用による自然の損耗までも修復すべきかどうか、これが敷金トラブルの元になっています。
民法606条では、貸し主には賃貸住宅の使用のために必要な修繕を行う義務について規定しており、通常の使用による自然損耗、たとえば畳やじゅうたん、壁紙やクロスなどの変色や、家具を置いたためのへこみなどは貸し主の修繕義務に含まれます。 しかし、貸し主の側からすると、新築同様の状態でないと借り手がなかなか見つからないことから全面改装せざるを得ず、その改装費用を敷金で負担しようとするため、このようなトラブルが多いようです。聞くところによると、食文化などの違いにより、油をたくさん使って調理する中国の人たちの場合、換気扇など台所が汚れやすいことなどから、クリーニングや洗浄の費用をめぐって貸し主ともめることもあるそうです。 家主から敷金の返還を求めるには、裁判所での調停や少額訴訟という方法があります。この相談事例のように請求額が30万円以下の場合は、簡易裁判所で少額訴訟を行うのがよいでしょう。 少額訴訟手続きは、弁護士に依頼しなくても本人でも可能です。また裁判所の許可を得て、事情のよくわかっている親せきや友人を代理人にすることもできます。手続きにかかる費用も1万円前後と安く、即日で判決が出されます。裁判所に提出する証拠書類などは、賃貸借契約書や現場の写真、借用書や領収書など、裁判の当日に調べられるものに限られます。判決について、原則として控訴はできませんが、不服がある場合は異議の申立ができます。ただし、相手方が裁判のはじめに少額訴訟は嫌だと主張すれば、通常の裁判手続きとなります。 東京都では、このような敷金をめぐるトラブルをはじめ賃貸住宅にかかわるさまざまなトラブルを防止するための「賃貸住宅紛争防止条例」がこの10月1日より施行されています。賃貸借契約の際の貸し手の説明義務や、入居中や退去の際の修繕に関する費用負担の原則などが明記されています。 同胞法律・生活センターでは住まいサポート活動を多くの有志の方々の協力を得ながら展開していきたいと思います。◆コリアンの住まい探しに協力してくださる不動産業者、家主の方々、ぜひご連絡ください。◆日本語をネイティブとしない方のための通訳サポーターも募集します。当センターの通訳サポーターとして登録させて頂いた上で、ボランティアとして活動していただきます。(金静寅、NPO法人同胞法律・生活センター事務局長) [朝鮮新報 2004.10.26] |