〈ざいにち発コリアン社会〉 インターハイ競泳に初出場、九州朝高金亜蘭選手 |
日本全国の高校生らが頂点を目指し、技量を競い合う夏のスポーツの祭典「全国高等学校総合体育大会(インターハイ)」。朝鮮高級学校のインターハイ参加が認められた1994年から10年の歳月が過ぎた。その間、ボクシング、サッカー、ウエイトリフティング部門に朝高生らが出場を果たしているが、今年初めて競泳部門に朝高選手が出場(男子200メートル自由型)し、民族教育の歴史に新たな1ページを刻んだ。九州朝鮮中高級学校の金亜蘭選手(1年)。強豪が集うなか、初出場で44人中30位に入る健闘をみせた。朝鮮学校に水泳部がない中、一人でどのようにしてインターハイ出場にこぎつけたのか。(金明c記者) ベストを尽くせた インターハイ、男子200メートル自由型の予選第2組。 「金亜蘭、福岡・九州朝鮮」−場内アナウンスが選手紹介を始めた。手を挙げて応える金選手。スタート台に立つその顔つきは、去年まで中級部生徒だったとは思えない一人のアスリートの表情に変わっていた。 「よーい…、パンッ!」 スタートの音と共に勢いよく水中へ。はじけ飛ぶ水しぶき。50、100メートル地点では6人中4位の位置につけ、150メートル地点では5位に後退した。しかし、ここからのスパートが見ものだった。ラスト50メートル。グングン加速し、手を懸命に伸ばしてタッチ板に押し付けた。3位だ。タイムは1分58秒68で総合30位。決勝へは進めなかったが、記録は自己ベストをマーク。1年生ながら堂々とした泳ぎを披露した。 「レベルの高い選手がたくさんいて、彼らの泳ぎがいい勉強になった。緊張したが、とにかくベストを尽くせた」とさわやかな笑顔を見せた。 中級部で才能発揮
3歳からスイミングスクールに通った。北九州朝鮮初中級学校中級部に進学した際、バスケットボール部に入ろうかと迷った。「記録が伸びなかった」のがその理由。 現在、各地の朝鮮学校に水泳部はない。プール施設がないため必然的にそうなってしまう。日本ではオーストラリアのイアン・ソープ選手や平泳ぎの北島康介選手の活躍などで水泳の人気は高く、競技人口も増えている。だが、朝鮮学校で水泳の「全国」を目指す生徒は皆無に等しい。 金選手のオモニ、孫城代さん(38)は、「中級部の時なんにでも手を出したがって、続けてほしいと説得するのが難しかった。一人じゃ心細いというのもあったと思う」と語る。 そんな中、金選手は自ら結論を出した。水泳を続けることにしたのだ。「小さい頃から続けてきて、やっぱり水泳が好きだから。中途半端で終えたくなかった」。 中級部時代から泳ぎの才能を見出され、一般クラスから選手クラスへ。スイミングスクールを変わり、浅野洋一郎さん(48、ときわスイミングスクール)と出会う。指導を受け始めて2年。種目を100、200メートル自由型にしぼる。 中級部2年の時、県代表でジュニアオリンピックカップに出場した。3年時には全国中学校総合体育大会・九州大会の100メートル1位、200メートル2位に輝き、全国中学校体育大会出場を果たした。その実力から今は県の強化選手に選ばれるほど。高級部に上がる時、他の日本学校から推薦も受けた。環境が整った場所での練習、目標を共にする仲間…。そんな事が頭をよぎった。 しかし、「朝鮮人としての自分を全国にアピールしたい」。「九州朝高」の看板を背負っての全国大会挑戦が始まった。県大会で3位に入賞し、今回のインターハイ出場にこぎつけた。 毎日5キロ以上泳ぐ 学校での授業を終えると、週1回の休みを除いて毎日スクールに通う。午後7時から約2、3時間練習に励む。総距離は5キロ以上にもなる。 水泳は100分の1秒を競い合う競技で日頃の練習の積み重ねが結果につながる。プールの水は質や温度によって泳ぎが重かったり、軽かったりと体感も違うという。「それだけ奥が深い競技」と金選手。 過酷な練習で嫌になるときもあるというが、「それを乗り越えて、いい記録を出せた時にすごい喜びを感じる。だからやめられない」とほほ笑む。 「家族二人三脚でここまで来た」とアボジの金永福さん(42)。「小さい時からオモニが面倒を見てくれた。息子と母のきずなが本当に強かった。本当の監督はオモニ」と笑い飛ばした。金選手をバックアップする九州中高の金在徳教員(39)も、「いい家族関係があってこそ、亜蘭がここまで成長したんだと思う」と語る。 浅野さんは、「ストロークが大きい選手で、これから確実に伸びていく素質がある。まだ1年生。これからしっかり力をつければ、全国のトップクラスに入れる」と太鼓判を押す。 金選手があつらえたジャージの背中には、自らの希望で「九州朝鮮中高級学校」の文字が刻まれていた。 「来年、再来年も必ずインターハイに出場する。目標は優勝。朝高の名をアピールし、実力を証明したい」(金選手) [朝鮮新報 2004.8.26] |