「恐怖の体験」 |
全身筋肉痛である。 まさかあんな恐怖の体験をするとは夢にも思っていなかった…。 先日、本社が発刊する雑誌「イオ」の取材でロッククライミングを体験した。初心者コースと聞いていたので、ちょっと「なめていた」。それが大きなまちがい。「現場」について、目を丸くした。まさに「断崖絶壁」。心の中で思う。これ登るの?(いや、登れるの?)。 カメラ片手に、「岩」をよじ登る同胞の姿を追う。最高齢は72歳。ロッククライミングは若者のスポーツとばかり思っていた先入観はきれいに消え去った。 迂回して頂からシャッターを押す。ふと、現実世界に戻る。下は見ない方がいいかも…。 だがそれは恐怖の序章に過ぎなかった。 日もだいぶ西に傾き始めた。そろそろ帰り支度でもと思っていた時、不意に耳にとどいた恐怖の伝言。 「君もやってみなさい」 沈黙。「は、はい…」。 若輩者の筆者の辞書に、「いやです」の言葉は存在しなかった。 もちろん命綱があるので地上に「真っ逆さま」はありえない。しかし人間とは弱い生きものである。「たら、れば」を考えてしまう。 震える足にむち打って、どうにか中腹までたどり着く。ここまで登ったからもう許してくれるだろう。 「もう無理です」。 自分の耳を疑った。「頂上までもう少しだから」。 若輩者の筆者の辞書に…。 どうにか登り終え、地上に降り立つ。両足が「地」についている安堵感。やはり人間には二足歩行が一番適していると再確認した。同時に新発見もあった。これ、おもしろい。終えた後の達成感は筆舌に尽くしがたいものがある。 そこで言われた一言。 「山では、共に登った人たちはみんな家族になるんだ」 甘えん坊の末っ子ぐらいにはなれたかな。(茂) [朝鮮新報 2004.4.27] |