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芸術家

 わたしは不器用な画家です
 眠りの来ない寝床に横たわり 指を胸にあてては あなたの鼻や口や 両頬に刻まれる笑窪までも描きました
 ところが いつも小さな微笑浮かべるあなたの 目もとばかりは 百たびも描いては消しました

 わたしは意気地なしの声楽家です
 隣の人も帰り 虫の音も止んだのに あなたが 教えてくれた歌をうたおうにも 居眠りしている猫に恥かしくて うたえませんでした
 それで 吹き抜ける風が窓の目張りを鳴らすとき そっと合唱したのです

 わたしは叙情詩人になるには あまりに素質に 欠けているのかもしれません
 「喜び」とか 「哀しみ」とか 「愛」とか そんなものは書きたくないのです
 あなたの顔や 声や 歩く姿をそのまま書きたいのです
 それから あなたの住む家と 寝台と 花畑に ある小さな石までも書きましょう

詩集「ニムの沈黙」(1926)に収録

韓龍雲(ハン・リョンウン、1879―1944) 人はみな恋をすると画家になり、声楽家になり、詩人になるようだ。「ニム」への深い思いを感じる一篇。(選訳・康明淑)

[朝鮮新報 2003.10.22]