top_rogo.gif (16396 bytes)

若きアーティストたち(13)

音楽ユニット「ヒャン」リーダー・河栄守さん

 練習場の中にあるせまい別室に通されると、乱雑に置かれた楽器や本、CD、衣類の中から譜面台に置かれた「国際指名手配ジョージ・W・ブッシュ、容疑:無差別大量殺人罪、小泉←この人も共犯」という写真入りの指名手配状が目に飛び込んできた。

 「普段はもう少しきれいなんだけどね」と、河栄守さん(33)。今年の全国ツアーに向けての試演会があったばかりで片付いてないという。

 先の「手配状」は知人からもらったもの。イラクに行った友人の話から、戦争、平和、マスコミの意図的な情報操作、そして、それに積極的に加担している日本、そこで暮らす「在日」にまで話はおよぶ。

 金剛山歌劇団(東京都小平市)に入団して11年。東京朝高卒業後、入団前の4年間は、肉体労働をしながら音楽活動を行ってきた。在日、日本の市民運動家たちとともに朝鮮の歴史や文化を研究し、各地の日本学校を訪問。生徒たちに歌や演奏を通じて自然に朝鮮文化に触れる機会を作り、その過程で同胞学生の本名宣言を目撃したこともある。90年代はじめには国会前で「従軍慰安婦問題」の解決を求めて路上ライブも行った。

 常に何かを求め続ける「旅人」のようなライフ・スタイルの持ち主。「ヒャン」の結成も、ステージという枠の中だけに閉じ込められがちな芸術をもっと柔軟に、解放したいという想いから出発した。

 音楽との出会いは初級部の頃。たった6人のブラス・バンドで、学校行事ほか各種同胞イベントを盛り上げてきた。「吹けるのはほんの2、3曲だったけど」と、照れ笑い。在日朝鮮学生中央芸術コンクールで聞いた、チャンセナプの音色に惹かれて民族器楽部に入部。歌劇団では民族打楽器を中心に、チャンセナプ、ピリなども演奏している。

 6.15共同宣言発表3周年を記念して、次週、南のロック・バンド、ユン・ドヒョン氏らと共演する。時代の変化を感じつつ「総聯と南のアーティストがひとつの舞台に立てるのは幸せなこと。これ自体、うちらが今、平和な世界に生きてる証だと思う」と話す。大きな歴史の流れの中で、「今」を生きるひとりの若者として、音楽をするアーティストとして「自分に何ができるのか」を常に問いかけている。

 「昨年9月以降、同胞たちの祖国離れ、組織離れ、『帰化』、『朝鮮籍』離脱などが増えていると聞いている。厳しい現状の中で、たとえ肩書きや見てくれが変わったとしても、その人間ひとりひとりには、ちゃんと脈打っているものがある。それは目には見えにくいけど確かに存在しているもの」

 彼はその「目には見えない」けど存在するものこそが大切だと考える。それは各自のルーツ、育ってきた環境などを意味している。

 「政治家じゃないから微力なのかもしれないけれど、音楽にも何かを変える力があると思う。変化を求められて一気に変わろうとしても、自身の生い立ちや成長過程をすべて変えることなんてなかなかできない。拉致問題はくやしいけれど、そういうこともひっくるめて前向きに生きていきたい」(金潤順記者)

[朝鮮新報 2003.5.28]