風もない空中に 垂直の波紋を描きながら そ
っと舞い降りる桐の葉は どなたの足跡でしょう。
長い梅雨のあけるころ 西風に追われる黒い雲
の隙間から ちらちらとのぞく青い空は
どなたの顔でしょう。
花もない老木の苔むす懐をくぐり 古塔のうえ
静かな空をかすめる えも言われぬ香りは
どなたの息吹でしょう。
知るすべもない遠いみなもとから生まれ 小石
とたわむれ流れる小川のせせらぎは どなた
の歌でしょう。 蓮の花のような踵で はてしない海原を踏み
玉のような手で はるかなる空を撫で 沈む
陽を美しく粧う夕焼は どなたの詩でしょう。
燃え尽きた灰はふたたび油となります。
尽きることなく燃え続けるこの胸は どなたの
夜を守るかぼそい灯りでしょう。 詩集「ニムの沈黙」(1926)に収録
韓龍雲(ハン・リョンウン、1879―1944) 「ニムの詩人」として有名な僧侶。一九一九年、三・一運動の時、独立宣言書に署名した三十三人の中の一人。(訳・康明淑) [朝鮮新報
2003.4.30]
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