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〈月刊メディア批評〉 「テロ」という言葉を使わないロイター通信

 日本の外交官2人が11月29日、イラクで殺害された。在イラク日本大使館の参事官は、外務省の対米追随派官僚の直系の外交官のようだ。加害者が米英の侵略に抵抗する武装勢力であれば、2人は、国際法に違反した米英のイラク侵略を一貫して支持し、年内にも憲法違反の自衛隊をイラクに派兵すると表明してきた小泉極右政権に殺されたと思う。日本の政治が日本国民2人を死に至らしめたのである。

 自民党の野中広務元幹事長らの保守政治家も含め、多くの人々が、対米追随外交を批判し、このままでは日本人がイラクの反米抵抗勢力の標的となると警告していた。また、アルカイーダなどの国際的な反米ゲリラ組織が、日本を攻撃すると予告していた。それを承知で米ネオコン極右政権との「信義」だけのために「イラク戦争」への参戦を強行しようとしている。2人はその犠牲になったのだ。

 日本の政府とメディア企業は、この事件を「テロ」と呼んでいるが、果たしてそうだろうか。

 世界最大の通信社ロイター(本社ロンドン)は加害者を「身元不明の攻撃者」と呼び、「待ち伏せして、殺害した」と報じている。小泉首相、川口外相らが「テロ攻撃だ」と発言していることは、そのまま伝えているが、記者が書く記事の地の文では、テロとかテロリストとは表現していない。

 ロイターは2年前の米9.11事件の加害者をテロリストとは表現しない。パレスチナ人民を無差別に殺害するイスラエル軍や、イラクを侵略し、強制占領する米英軍をテロリストとも言わない。

 ロイター本社には、「アルカイーダをなぜテロリストと呼ばないのか。お前はそれでも英国人か。国益を考えろ」という抗議電話がかかってくるという。電話を受けたデスクが、「私はスイス人だ」と言うと、相手は電話を切ったそうだ。

 ロイター、AP(米)、AFP(仏)のような国際通信社やBBC、CNNのようなメディアにはさまざまな国籍、人種、宗教の記者たちが働いている。英語などの言語ができて、記事が書ければいいのだ。

 日本のメディア企業の記者はほとんどが日本国籍者である。大手報道機関がザイニチの記者を採用し始めたのは1990年代からで、採用数は極めて少ない。

 ジャーナリズムは国益ではなく、人民の権益のために奉仕するという国際的なメディア倫理が日本ではほとんど守られていない。

 私は20年前から、日本の政府とマスメディア企業が朝鮮民主主義人民共和国を「北朝鮮」と呼ぶのは不当だと強調してきた。しかし、日本のリベラルと言われる知識人も「朝鮮と呼ぶと、李氏朝鮮の朝鮮と混乱するし、北朝鮮でいい」などと述べてきた。

 朝鮮の政府と人民は、日本に対して、「北朝鮮と呼ぶなら、我々は日本のことを『倭の国』と呼ぶしかない」と表明し、国連の場で、「ジャップ」「島国日本」と呼んでいいのかと問題提起した。これを「今度は島国」(朝日新聞)という見出しで報じるメディアに悪意を感じる。

 日本のほとんどのメディアは今年初めから、国名を正式に呼ぶこともやめてしまった。「北」という言い方も普通になった。1991年に、大韓民国(韓国)と朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が国連に同時加盟したことを忘却している。

 朝鮮は、「日本が北朝鮮と呼ぶなら、私たちも、そのように呼ばざるを得ないのではないか」と言っているのだ。

 10月に同志社大学で講演した日本外務省幹部は、「なぜ朝鮮と呼ばないのか」という私の学生の質問に対し、「北朝鮮とは国交がないから、地理的な概念でそう呼んでいる」「国として認めていないから北朝鮮でいいのだ」と答えたという。

 ところが、朝鮮が日本による過去の強制連行など過去の清算問題で、朝・日協議を提案したことを伝えた11月12日の朝日新聞に《外務省は「北朝鮮の言う『補償問題』は02年9月の日朝平壌宣言で解決済みで、それだけを目的にした協議には応じられない」(幹部)としている。》という記事が出た。

 ここでは、日朝首脳が両国の正式名でサインした宣言を根拠に発言している。朝鮮を国として認めているのだ。こういう姿勢を二重基準と言うのだ。

 朝鮮が政府間交渉に言及したのは8月末の北京での6者協議以来で、重要なニュースだ。なぜ、朝日は情報源を「幹部」とあいまいにするのか。記者会見で責任者にきちんと聞くべきであろう。(浅野健一、同志社大学教授)

[朝鮮新報 2003.12.10]