〈月刊メディア批評〉 極右石原東京都知事の妄言 |
日本の新聞、テレビは人民にとって最も切実で重要なニュースを大きく報じないことが多い。朝鮮通信によると、10月21日の「労働新聞」は、金正日総書記が、日本との関係改善問題と関連し、「日本との関係では、日本がかつてわが国とわが民族に及ぼした罪業をきれいに清算する問題が基本」とし、「罪多き過去を伏せていては関係改善など話にもならない」と述べたことを伝えた。私が知る限り、このニュースは毎日新聞に小さく載っただけで、ほかの新聞には出なかった。 朝鮮外務省スポークスマンは既に、「過去の清算が朝・日国交正常化のための必須不可欠の条件になる」との立場を明らかにしていたが、昨年9月17日以降、朝鮮のメディアが「関係改善の基本は過去の清算だ」という総書記の言葉を引用するのは初めてのことである。日朝首脳によるピョンヤン宣言では、日朝の過去について一定の決着がはかられていたはずで、日本側の「拉致」を理由にした宣言無視の外交が、総書記の発言を招いたのだと思う。日朝の今後にとって極めて重要なニュースを黙殺する日本メディアに私はあきれ果てている。 一方、日本のメディアは、国粋主義者で女性蔑視や人種差別発言を繰り返す石原慎太郎東京都知事の度重なる妄言を無批判に垂れ流し、真正面から批判しない。圧倒的な支持を得て再選された石原知事は血迷っているとしか思えない。 都知事は10月28日、朝鮮による拉致問題の解決を訴える「救う会東京」の集会で基調講演した際、1910年の日韓併合に触れ、「彼ら(朝鮮人)の総意で日本を選んだ」「どちらかといえば彼らの先祖の責任」などと述べ、当時の朝鮮人が日本との併合を望んだとの見方を示した。 毎日新聞によると、日本民族のルーツについて話す中で、「(日本は)決して武力で侵犯したんじゃない。むしろ朝鮮半島が分裂してまとまらないから、彼らの総意で、ロシアを選ぶか、シナを選ぶか、日本にするかということで、近代化の著しい同じ顔色をした日本人の手助けを得ようということで、世界中の国が合意した中で合併が行われた」と話した。また、「私は日韓合併を100%正当化するつもりはない」としたうえで「彼らの感情からすれば、そりゃやっぱりいまいましいし、屈辱でもありましょう。しかし、どちらかといえば彼らの先祖の責任であってね」と述べた。 朝日新聞によると、石原知事はまた「植民地主義といっても、もっとも進んでいて人間的だった」とも述べたという。 石原知事は同31日の定例会見で、「(当時の韓国は)中国あるいはロシアに併合されそうになって、それならばということで清国の実質的な属領から解放してもらった日本に下駄を預けた。それが正確な歴史です」と述べた。 日本の政治家が朝鮮について暴言を繰り返してきたが、これほどひどい見解表明はないと思う。 ところが、日本の主要メディアは、石原氏の暴言をそのまま伝えるだけだ。 毎日新聞は11月1日、定例会見の発言を伝えたが、発言について「識者に聞いた」という記事を載せただけだった。ソウル市立大学の教授の談話と、極右の西尾幹二氏の寄稿を載せた。新聞の主体性を放棄した「両論併記」である。 石原氏は「シナ」という表現を一時やめていたが、また使い始めた。同志社大学の中国人留学生たちは「なぜ新聞やテレビは石原知事を徹底的に批判しないのか」と怒っている。 石原氏はとんでもない歴史認識を持っており、強く批判されるべきだ。それと同時に、石原氏の歴史改ざん発言内容を「事実」として報じるだけで、石原氏の見解について、真っ向から批判しないマスコミ企業はもっと批判されるべきだろう。 日本は「併合」の5年前に、事実上、朝鮮を強制占領した。日本の侵略に心ならずも協力した朝鮮の人がいたことを否定しない。生きるために思想信条を売り渡す人間はどこにもいる。他国を侵略する政府はいつも、それなりに侵略を正当性するために、あらゆる手段を使って、でっちあげ、捏造を行うのである。 米国のメディアは権力批判の姿勢を後退させているが、日本のマスメディア報道よりはかなりましだと思う。2003年10月22日号の米誌「ニューズウイーク」は「『拉致』された北朝鮮報道」と題するコラムを載せた。デーナ・ルイス氏の署名で、サブ見出しは、「拉致問題についてはもっと自由な報道と議論が必要だ」だった。 「この1年、メディアに根を張ったように登場し続けている話題がある。北朝鮮による日本人拉致問題だ」「被害者にインタビューできるのは、彼らの眼鏡にかなった記者だけ」 まことに適切な指摘である。 10月15日の朝日新聞は、拉致被害者の地村夫妻の手記を掲載。日本政府が「帰さない」と決めたので、日本に留まることにしたと書いている。政府に従うしかなかったというのだ。安倍晋三氏らは、政府の決定より前に、被害者5人が一致して自らの意思で永住帰国を決めたと言ってきた。このウソが判明した。しかし、メディアは全く追及しない。 田中真紀子元外相が10月31日、「(拉致被害者の)子供の国籍は国際法上は北朝鮮籍ではないでしょうか。(帰国は)容易ではないとはっきり言わないとだめですよ」「帰国した5人のご家族がすぐにも帰ってくるとあまり耳ざわりのいいことを(政府は)言わない方がいい」と言明したのはきわめて的確だ。(浅野健一、同志社大学教授) [朝鮮新報 2003.11.11] |