〈月間メディア批評〉 安倍幹事長と小泉「改造」内閣 |
日本の隣国を勝手に「北朝鮮」と呼ぶマスコミ企業は、小泉純一郎首相の「総裁選」と「第三次内閣」に関する報道で、「改革継続路線」とか「郵政民営化」などと、首相の掲げる看板をそのまま使っている。これは米国のフォックスTV、CNNなど翼賛メディアがイラクへの侵略を「自由化作戦」などと米国防総省と同じワッペンをつけて報道したのと同じである。 小泉政権が「改革」したことは何もない。憲法違反の靖国神社参拝を三度も強行し、自衛隊を軍隊だと言い張り、朝鮮を敵視して有事法を成立させた。いまは、麻薬取引疑惑のあるアーミテージ国務次官に命令されて自衛隊をイラクに派遣しようとしている。郵便局を民営化する必要がどこにあるのか。国や自治体が公共サービスを担って当然だ。 国家観、社会観などのイデオロギーも信条も全く異なる公明党と野合して、日本経済の一部が順調だというが、政府の経済政策と無関係な半導体などのハイテク部門が健闘しているだけだ。経済政策に影響を受ける産業は不況のままで、失業率もそのまま、中高年を中心に自殺者が3万5000人を超え、若者は荒れている。 マスコミ企業は、小泉政治が何の「改革」もしていないし、今後の展望もないのに、小泉政権に異を唱える人々を「抵抗勢力」とレッテルを貼って非難する。 また、安倍晋三氏が自民党幹事長に就任したことを、「三代続けての自民党幹事長」、「若さをアピール」などと賞賛した。安倍氏の母方の祖父は岸信介元首相だ。タカ派の岸氏は東条英機内閣の商工大臣で、極東軍事裁判でA級戦犯として有罪判決を受け巣鴨のプリズンに拘禁された。 安倍氏は、就任の記者会見で「長州(山口)出身の政治家として恥ずかしくない仕事をしたい」と語った。いまどき、薩摩、長州などという出自を持ち出すことがアナクロなのだ。9月29日発行の「アエラ」(朝日新聞)は、安倍氏の政治家DNAを論じた。 日本テレビなどは、露骨に安倍幹事長を絶賛した。また、自民党内の派閥の力がなくなったというのも真っ赤なうそだ。森派、橋本派の青木系が権力を掌握したのだ。 自身も政治家三代目の小泉首相は「当選3回の若手が幹事長。いいでしょう」と言ったが、若ければいいわけではない。安倍氏の政治家としての識見が問われるのだ。 大新聞はこぞって、安倍氏は拉致問題で活躍して国民の人気を集めたと報じたが、新聞社がそう書いたからの人気だ。安倍氏は、一年前の日朝首脳会談の場にいながら、小泉首相がサインしたピョンヤン共同宣言を無視して、拉致被害者5人の一時帰国を永住帰国に変えた。官房副長官時代に、朝鮮は「ほとんどが暴力団がやっていることをやっている」などの暴言を散々発した安倍氏は、幹事長就任後にさっそく朝鮮を誹謗中傷する発言を展開している。 拉致問題が「進展」しないのは、安倍氏と、安倍氏が連れてきた中山恭子内閣参事と極右・米国追随政治家、官僚の約束違反が主な原因である。 詐欺、ペテンの新内閣(タレント内閣)の誕生直後に行われたメディア各社の世論調査で、小泉内閣支持率が10ポイントも上がった。メディアが、この戦後最も危険な政権の本質を伝えないからだ。 9月28日のNHK政治討論会で、安倍幹事長は、自衛隊をイラクに送ることの正当性を全く説明できなかった。共産党書記長に、「共産党はサダムフセインを擁護した」などと荒唐無稽な批判を行った。公明党の冬紫幹事長は、イラクで大量破壊兵器が見つからなかったことについて、「いまから探すんだ」と言い放ち、「日本が中国で隠していた毒ガスが最近、破裂したように、どこかで出てくる」などと全くとんちんかんな発言を行った。冬紫氏は、旧日本軍が朝鮮でも毒ガスなど化学兵器を使ったことを知らないのだろうか。しかし、新聞がそれを報じてもいない。 イラク侵略を行った米英では、政権がうそをついて戦争に走ったことをメディアが厳しく批判しているのに、米政権の言いなりになって自衛隊派兵まで決めた小泉政権は安泰なのである。 日本では天皇もほとんどの政治家も世襲である。閣僚の認証式をテレビで見たが、天皇から「拝命」を受けて、うやうやしく最敬礼して受け取るシーンを見て、「皇軍に侵略されたアジア太平洋の人々が見たら、どう思うだろうか」と感じた。 日本の新聞、雑誌、テレビは、朝鮮など自分たちの嫌いな国について、気持ち悪いとか、封建的だなどと形容するが、「神国日本」の現状こそ異様ではないか。 朝鮮外務省スポークスマンは9月16日、談話を発表し、過去の清算が朝・日国交正常化のための必須不可欠の条件になるとの立場を明らかにして、日本が朝鮮人民に働いた100余万人の虐殺蛮行など、重大な人権問題に関して次のように要求した。「日本は当然、事件別に真相を調査、公開すべきであり、これに対する個別の謝罪とともに被害者とその遺族にそれ相応の補償を行なうなど、過去の清算に臨むべきである」。 安倍幹事長は、政権与党の責任者として、朝鮮の要請に真摯に応えるべきであろう。それなしに、「拉致」も解決しないのである。(浅野健一、同志社大学教授) [朝鮮新報 2003.10.4] |