「未来へ続く生命のために」−国境なき医師団医師の山本敏晴さん |
アフリカ大陸の西側、ギニアの隣にシエラレオネ共和国という小さな国がある。北海道と同じくらいの面積に約450万人が暮らすこの国は、平均寿命25〜35歳、乳児死亡率、5歳未満の乳幼児死亡率、妊産婦死亡率…これらすべての医療統計において世界最悪の数字を記録している。 日本人の平均寿命が75〜85歳であることと比較すると、この国の平均寿命はわずか3分の1程度。このため、国連やWHO(世界保健機構)から常に注目されている国であり、まぎれもなく世界最悪の医療事情にある国である。 意味ある国際協力 山本敏晴さん(37)が国境なき医師団(MSF)からシエラレオネに派遣されたのは2年前のこと。「本来、悲観主義者でマイナス思考」と話す山本さんは、「国際協力とは、しょせん自己満足ではないのか?」との思いから、20年以上それについて考え続けてきたと言う。国際協力や世界平和といった言葉が、ただの偽善にしか映らず、「どうせ自己満足なんだろ…」と否定していた気持ちの片隅に、しかし、「無性に気になる存在」としてその言葉が同居していた。 「本当に意味のある国際協力の道があるはず」と、自身の「理想と信念が正しいか確認するため」35歳を過ぎる頃、山本さんはMSFの扉をたたいた。そして、全身でシエラレオネの現実にぶつかっていった。 戦争のため、医療システムが崩壊した土地で、現地の人々とともに病院を設立し、医療活動に奔走した。そしてそのかたわら余暇を活用して、現地の人々の教育にも力を注いだ。MSFの力をかりなくともいずれは彼らだけでやっていけるように。 対等な人間として 小学生の頃からアジア、アフリカなどを中心に40カ国以上を訪れたという山本さんは、本当に意味のある国際協力とは、「相手の立場に立って物事を考えると同時に、その人の目先に必要なことだけではなく、その国の人々全体の未来にとって必要なことを理論的に、計画的に実行していくこと」と考える。 そして朝鮮に対する食糧支援についても、「私の国際協力には6つのポイントがある」と話し、そのひとつに「悲惨さを誇張せず、彼らも対等の立場の人間として確認する」というのがあるが、悲惨さばかりを誇張すると、「彼らは貧しいから、単に食糧やお金を恵んでやれば喜ぶだろう」と相手を見下し、対等の人間であるという認識が薄れてしまう。アフリカの場合もそうだが、「彼らがすばらしい文化や歴史を抱えていることを忘れてはならない」と話した。 朝鮮へはまだ行ったことはない。しかし、「機会があれば行ってみたい」と語る。 「現地文化尊重と未来へ続くシステム。この2つのバランスをとりながら、今後も国際協力について考えていきたい」というのが彼の姿勢だ。 より多くの関心を 昨年秋、シエラレオネでの半年間におよぶ活動をまとめた本「世界で一番いのちの短い国―シエラレオネの国境なき医師団―」(白水社)が刊行され、大反響を呼んだ。その後、読者からは「子どもたちにも読める本を」との要望が多く寄せられ、それに応える形でこの度、写真絵本「シエラレオネ 5歳まで生きられない子どもたち」(アートン)が出版された。 本書は、著者自らが撮った写真を中心に、小学生でも読めるようわかりやすい文章を用いて総ルビで製作されている。日本語のほか、英語、フランス語、スペイン語、中国語、朝鮮語の5カ国語に翻訳、出版されるという。前書は、最近ハングル版が南朝鮮で刊行された。いずれも原稿料、印税なしの非営利。 山本さんはほかにも全国各地で講演や写真展をすべて無料で行っている。11月13〜19日、東京都千代田区のオリンパスギャラリーで写真展「平和という贈りもの」が開催される。(金潤順記者) [朝鮮新報 2003.10.1] |