〈月刊メディア批評〉 反朝鮮世論を背景にイラク出兵へ |
自衛隊をブッシュ・小泉の私兵化するイラク特措法が7月26日未明に成立した。小泉純一郎・極右政権が軍事大国化の道を歩む悪法を次々と成立させることができたのは、朝日新聞と朝日新聞資本が所有するテレビ朝日の反朝鮮報道があったからである。 7月27日の朝日新聞社説は「休戦50年−長い視野で隣国を見る」と題して次のように主張した。 「将来の国交正常化にも触れた94年の枠組み合意は、米朝関係に新局面を開くと期待された。そして、3年前の南北首脳会談の実現。/ これらが結局、実を結ばなかった責任の大半は北朝鮮にある。」「その孤立主義や瀬戸際外交に理解を示す国はどこにもなくなった」 。この後、朝鮮を訪れた韓国の老人(仮名)の話をもとに、朝鮮を誹謗中傷した。 この社説は朝米協定を一方的に破ったブッシュ米政権と、朝鮮を敵視し続けてきた日本政府の責任に全く触れない。歪んだ歴史観で近視眼的に「隣国」を見ているとしか思えない。 また、朝日新聞は6月10日の社説で、「北朝鮮を変えるてこに 日韓の絆」と題して、朝鮮をどう変えるかを論じていたが、「北朝鮮を変える」という発想に違和感を持つ。 7月21日のテレビ朝日のニュースステーションもひどかった。帰還事業で1959年に朝鮮へ渡り、今年1月、中国に脱出し帰国した日本人妻が実名で出演した。 国家と国家の狭間で苦労したこの女性の生の声を放送するのはいいと思うが、キャスターの久米宏氏の物言いに異議がある。「北朝鮮は2人が○○さんの子供だということを確認しているのですね」と念を押して、「子供をあちらに残していらっしゃるから、今夜話されることには限界があります」などと繰り返した。また、久米氏は59年の帰還船の映像を見せながら、「朝鮮総連の△△支部が3年に1回は日本へ帰れると約束したのですよね」「総連幹部の約束は破られたわけですね」と強調した。 この女性と家族が日本に里帰りできなかったのは、日本が韓国を朝鮮半島の唯一の国家だとして65年に国交を樹立し、米国との軍事同盟を強化して朝鮮を敵視してきたためだ。 この女性は日本人であり、日本政府が国交正常化をしなかったことが主要な原因であろう。彼女も彼女の夫も、朝鮮と日本が44年間も敵対するとは想像しなかったと思う。 彼女が一時帰国できなかったのは、朝鮮政府と朝鮮総連に全責任があるかのように誘導する久米氏と、同席した清水建宇・朝日新聞編集委員には朝鮮への悪意が感じられる。 日本の政府首脳と朝日新聞幹部は、国際法に照らせば、今も朝鮮が日本の植民地下にあると正確に認識しているのではないか。日本は1910年に朝鮮半島を侵略し、「大東亜共栄圏」というカルト体制が崩壊した45年8月15日まで強制占領した。 日本は侵略したアジア太平洋諸国と戦後処理を行ってきたが、朝鮮半島の北半分を占める朝鮮とはいまだに国交がなく、戦後補償もしていない。それどころか、朝鮮と休戦中の米国に巨大な軍事基地を提供し続け、65年に軍事政権の韓国が朝鮮半島を代表する国家と認定し、国交を樹立。日本は朝鮮が韓国とともに国連に加盟した後も、国交正常化を怠り、朝鮮を敵視してきた。朝鮮と日本は間接的ながら戦闘状態にあるとも言えるのだ。日本は一貫して、1910年の「日韓併合」は合法的だったと主張しているから、8.15以後、戦後処理を済ませていない朝鮮は今も植民地状態ということになる。 日本の支配層も、朝鮮が日本人を拉致したことについて、ある種の「半植民地」ゲリラ闘争だと考えている。小泉首相らが歴史的な日朝首脳会談で訪問したピョンヤンに一泊もせず、11時間でとんぼ返りしたのは、朝鮮が法的には今も日本の植民地支配下にあることを熟知しているからにほかならない。 日本政府と右翼反動勢力は、日本の過去と現在の侵略を現在も明確に批判し続ける朝鮮を叩き潰したいのである。もし朝鮮の言うことに耳を傾けるなら、日本政府と国民の歴史認識を根底から変更せざるを得ず、そうなれば侵略戦争に「無答責」で経済大国化を成し遂げた日本国家の屋台骨が揺らぐと認識しているからだ。(浅野健一、同志社大学教授) [朝鮮新報 2003.8.18] |