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〈関東大震災−朝鮮人虐殺から80年〉 山田昭次氏(立教大学元教員、歴史学者)に聞く

 9月1日の関東大震災朝鮮人虐殺80周年に際し、歴史研究者の山田昭次・立教大学元教員(73)が5日、創史社から「関東大震災時の朝鮮人虐殺―その国家責任と民衆責任」と題する本を出版する。出版に際しての思いなどについて話を聞いた。

 ―30年ほど前から機会あるたびに朝鮮人虐殺に関する論文などを執筆されてきたが、今回、本を出版するにあたっての思いは。

 朝鮮人虐殺事件から80年が経つが、日本政府はいまだに事件に関する調査結果も発表せず、謝罪も行っていない。当時の責任を果たすことはできないものの、歴史研究家、日本市民として、その後、事件をあいまいにしてきた責任を追及することはできる。

 つまり、真相を隠し続けてきた「恥の上塗り」の80年間の国家責任を問うのが民衆の責任でもあるということだ。そのため拙著では、事件の検証よりも、デマを流して虐殺を実行し、民衆をも虐殺に加担させた国家責任、そして民衆の責任問題について検証、問題提起した。

主語ない碑文

 ―検証していく過程で感じたことは。

 まず、各地に建立された追悼碑を調べて思ったことだが、碑文には朝鮮人が殺されたということは明記されているものの、誰が殺したかという主語はひとつもなかった。

 また、事件に対する責任をどのように追及していくのかも考えさせられた。

 日本の植民地支配により、朝鮮半島から生活の糧を求めて日本に渡ってきた朝鮮人が殺され、その数は6000人を超えると言われる。故郷では親兄弟、妻などが待っていたと思うが、遺骨どころか、死亡したことすら知らされていない。これは強制連行され犠牲になった朝鮮人も同じことだ。

 犠牲になった1人ひとりの人生を思うと、これは決して忘れてはいけない史実だ。

 日本人に求められるのはまず、他人の喜びとともに悲しみも共感することだ。こうした過程がなければ真の国交は結べない。

 そもそも日本は、こうした過去の問題について、サンフランシスコ講和条約および日韓条約締結時に解決する機会があったが、あいまいにした。だから日朝国交正常化はその最後のチャンスだと言える。日朝関係は「良心と正義によって解決」されなければならない。

 ―朝・日首脳会談以降、「拉致事件」をきっかけに朝鮮学校生徒に対する嫌がらせなどや各種事件が再発したが。

 これは、日本の社会状況が80年前をほうふつさせる雰囲気にあることを示している。当時の朝鮮人差別、蔑視意識が一部に根強く残っている証だ。

 拉致家族の苦悩は、速やかに解消されなければならない。朝鮮は事実を認めて謝罪、再発防止を誓った。朝鮮による人権侵害を批判するなとは言わないが、ダブルスタンダードはよくない。

 「第2の関東大震災」のような衝撃的な朝鮮人差別事件が繰り返されぬよう、日本市民は歴史から教訓を得るべきだ。

不可欠な交流

 ―日朝友好を築くうえでの課題は。

 関東大震災時、朝鮮人を助けたという日本人もいた。それは交流があった人々との間でだ。つまり交流こそ事件の再発防止につながり、新たな関係を築いていくきっかけになる。

 日朝首脳会談後、日本のマスコミは朝鮮に対し異常なほど過激な報道を繰り返している。関東大震災当時、民衆をミスリードしたのもマスコミだ。マスコミは友好の雰囲気を作る役割も果たすべきだ。(羅基哲記者)

 ※創史社の電話およびファクス=03・3377・2083、定価本体=2200円(税別)

[朝鮮新報 2003.8.2]