歴史に無知、健忘症なメディア−シンポ「東北アジア新時代を考える」から |
6月27日、東大で開かれたシンポジウム「東北アジア新時代を考える」では、現在の日朝関係に危機感を持つ姜尚中東大教授ら識者が約4時間にわたって、さまざまな視点から意見を述べた。 姜教授は、拉致「被害者の家族会」が南を訪れ、金泳三元大統領らと会ったことについて、「拉致事件という冷戦下に起きた悲劇的な事件を利用して、日韓の反共政治家が再び手を結ぼうとするものである」「(彼らは)朝鮮民族を見下し、侮辱している」と喝破した。 さらにクラスター爆弾を投下するなど一方的な米国によるイラク侵略戦争に言及しながら、あたかも「害虫駆除」のように殺害されたイラク市民の死者の数が1万人以上を超え、しかも今も毎日増え続けていると指摘したうえで次のように語った。 「20世紀のさまざまな悲劇的な歴史に無知、健忘症であることに加え、傲慢このうえもない日本のメディアによって東北アジアの平和が今、危機にさらされている。2000年6月15日、南北共同宣言を実現させ、朝鮮半島に平和と和解をもたらそうとした動きに足をひっぱろうとする日本の世論はぶざまである」 続いて、小森陽一東大教授が発言し「バブル経済の破綻以降、長引く不況、失業など漠然とした国民の不安感を日本の政治は何も解決せず、その不安のハケ口を北朝鮮に向けようとしてきた。度し難いメディアの北朝鮮バッシングがそのことを端的に表している」と述べた。 そして、北朝鮮報道の特徴は「事実を抹消して、イメージと表象を膨らませ、歴史性を否定して、徹底的に問題を単純化させ、合理的な思考や判断力を奪っていく点にある」と語った。漫画家の石坂啓さんはワイドショー番組に出演した経験を語りながら、扇情的な北朝鮮像を意識的に作る番組の実態を語った。 元共同通信社会部記者でジャーナリストの魚住昭さんは、「昨年9.17以降の新聞、テレビを見るたびに心の底から絶望感を抱いた」「大ウソがまかり通っている」とメディア状況の劣悪さを強く非難した。 また、有事法制の論議の際に、「国民保護法制」うんぬんの論議があったことを指摘。「戦争状態に入り、空から爆弾が降ってくる時に、国民を保護する法律を政府が作るわけがない。国民を戦争態勢に動員するための詭弁であり、まったくのウソである」と、その嘘も見抜けず、有事法制が簡単に国会を通った状況を嘆いた。 そして、なぜ、このような酷い状況が生まれたかについて@記者の特権化、高収入によるエリート化A記者が組織の歯車となって「私性」を失いつつあり、社会の下層で苦しむ人々に共感できない思考停止状態にあること―を上げ、「朝鮮半島で戦争になれば、おびただしい人たちが死ぬ」という想像力すら日本の新聞記者は持ち得なくなったと指摘した。 山室英男NHK元解説委員長がベトナム戦争の悲劇について語りながら「アジア人同士が米国の都合によって戦わされるのを断固拒否しなければならない」「愚劣なテレビは消す、酷い本や新聞は買わず、読んではならない」と訴えると、会場から大きな拍手がわき起こった。(粉) [朝鮮新報 2003.7.3] |