「誠信」へのアプローチ−朝・日交渉と拉致問題をめぐって− |
「朝鮮を口実に突き進む日本の軍事化プロセス」 今年は「関東大震災80周年」の年である。15日、東京では「女性・戦争・人権」学会と「戦争と女性の人権」センターに属する日朝韓の研究者が集まって、シンポジウム「ジェンダー視点から植民地暴力の歴史を振り返る」が開かれた。そこで「関東大震災と『日本人』―朝鮮人、中国人虐殺とは何であったのか」について、大越さんが報告した。 その報告の冒頭で、大越さんが伝えた話はあまりにも衝撃的なものだった。今年4月13日、世田谷パブリック・センター。その舞台で93歳の女優・北林谷栄さんがこう語り出したと言う。 「私は今日ここで、皆さんに80年間ずっと持ち続けてきた怒りをぜひ聞いてほしいのです」 関東大震災が起こった時、北林さんは13歳。焼け出されて、テント暮らしを余儀なくされた。大混乱の中で大人たちは殺気立ち、自警団が作られ、そのリーダーになった在郷軍人は、通りがかった人たちを呼び止めて、朝鮮人か否かと居丈高に問いつめ、朝鮮人と分かった人に暴力を振るった。そして数日後、家の近くで無残に殺された朝鮮人の遺体を目撃。その人の無念さを思って、周囲の大人を問いつめたが「子供が関わることではない。黙っていなさい」と黙殺された。それ以降、北林さんは、怒りを封印したことに贖罪意識を持ち続け、舞台や映画で朝鮮人を演じ続けてきたという。 少女の胸を凍りつかせた80年前の惨劇。「日本の国家支配体制が強要し続けている国家暴力の隠蔽に、私たち市民はもはや加担することは許されない」と語る大越さん。「関東大震災時の朝鮮人虐殺事件は、ようやく芽生えはじめた日朝両国の人々の連帯の芽を破壊しただけではない。この事件の根本的な反省が、政府の手によってはもちろん、論壇・ジャーナリズムでも行われなかった。それどころか、この事件を通じて、日本人の民族排外主義、朝鮮・中国人民への差別、蔑視の思想がいっそう助長されていったのだ」。そして虐殺事件を隠蔽し、真相を追及してこなかった「日本人」の責任についても明らかにしたいと厳しく語る。 長引く不況、蔓延するナショナリズムの気分。拉致問題を契機に、過去の植民地支配の責任や国家暴力への歴史的視座がかき消され、石原都知事のような三国人発言や朝鮮、中国人への差別的言辞の数々が拍手喝采を受けている事実。大越さんは日本国内の感情的、情緒的な朝鮮憎悪の雰囲気についてこう語る。 「メディアあげての一方的な北朝鮮非難の嵐の中で、チマ・チョゴリ切り裂き事件が起き、卑劣で陰湿な民族排外主義が在日朝鮮人を取り囲んでいる。そして、再び、愛国心が叫ばれ、あれよあれよという間に有事3法が国会を通過した。このすさまじい軍事化のプロセスは、すべて朝鮮を口実に行われたものである。前の戦争の謝罪も責任も果たさぬままに、また、次の戦争にのっかかっていこうとする日本の現状は恐ろしい」 大越さんは、関東大震災の時、女性解放を唱えた平塚らいてうが、「愛国心」の発揚を率先して唱えたことに注目する。 らいてうは「この大試練に出逢って、私たちは国民としてかつて戦時においてさうも示さなかったほどの勇猛心を発し、罹災者の救護に、罹災地の復興、新帝都の建設に一種の国民的緊張を現したことであります。私はこの国民的緊張の気分の中で、私どもがともすれば忘れそうになっていた愛国主義を、新しい本当の意味においてこの際学ぶであろうと思います」と当時、記している。大越さんは、現実に勃発した朝鮮人、中国人虐殺を無視して、このような美辞麗句を謳いあげる彼女の無神経さの中に、後の日本が陥った日本中心主義を鋭く見つめている。 大越さんによれば、日本の女性史研究でも、旧植民地国に対する日本女性の関わりの認識は、極めて薄く、今日に至るまで欧米のフェミニズムは常に最も魅力ある存在として受け入れられてきた、という。日本女性史はアジア侵略を不可欠の要素としてきた日本の近代史と離れてはありえない。「帝国のフェミニズム」が、アジアの女性をいかに踏み台にしてきたかを、鋭く問う視点こそ、今求められていると大越さんは強調する。 1923年は、「日本人」にとって大きな意味を持っている。10年の強制占領以降、朝鮮半島において植民者として数々の不正義な行為に手を染めた「日本人」は、19年の「3.1運動」で、朝鮮民衆からその不正義を厳しく追及された。しかし、「日本人」は正義と公正の道を選ばず、侵略戦争を拡大し、国内外で殺戮の道に突き進んだのだ。 あれから80年経った現在の日本。国際化の時代の潮流に背を向け、相変わらず日本は、 「日本人」への同化を強要し、同化を拒絶する人々に有形無形の迫害を行うシステムが続いていると大越さん。このような 「日本人」解体のために、80年前の虐殺の記憶、原初の暴力の記憶を手繰り寄せ、改めて虐殺事件の真相究明とこの重大犯罪に対する法的、倫理的責任を、日本政府、東京と周辺の地方自治体に求めたい、と語った。(近畿大学教授、大越愛子さん)(朴日粉記者) [朝鮮新報 2003.7.2] |