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〈朝鮮学校児童、生徒の嫌がらせ被害〉 若手弁護士グループ、法相に未然防止要請

 昨年の9月17日以降、急増している朝鮮学校児童、生徒に対する嫌がらせ問題に関し、今年1月から3月にかけて被害の実態調査を行ってきた若手弁護士グループが20日、東京都千代田区の法務省を訪ね森山眞弓法務大臣に被害の未然防止を求める要請書と、嫌がらせ被害の実態をまとめた調査報告集を手渡した。また、要請後、弁護士会館(千代田区)で記者会見を開き、要請の内容や調査の結果について報告した。

明確な施策要求

森山法務大臣に要請書を手渡す杉尾代表

 法務大臣への要請を行ったのは、「在日コリアンの子どもたちに対する嫌がらせを許さない若手弁護士の会」(以下、若手弁護士の会)。昨年10月から東京、埼玉、神奈川の各弁護士会に所属し活動している14人の弁護士が立ち上げた。

 この日、同会の杉尾健太郎代表ら7人が、江田五月参議院議員(民主)とともに森山法務大臣を訪ね、直接要請書を手渡した。要請書は、昨年9月17日以降の朝鮮学校児童、生徒に対する嫌がらせ被害の実態調査の結果を踏まえ、これまで在日コリアンに対する嫌がらせがことあるごとに繰り返されてきたが、いまだに政府が嫌がらせ被害の根絶に向けた明確な施策を打ち出しているとは言いがたい現状にあると指摘。法務省における具体的施策の実施が急務であるとし、「嫌がらせ被害を未然に防止し、在日コリアンの子どもたちが怯えずに生活できる当たり前の環境を実現するため」に差別禁止法の制定など具体的な施策実施を検討するよう求めている。

 記者会見で杉尾弁護士は、あわせて森山大臣に朝鮮学校を訪問してくれるよう要請したとしながら、森山大臣から、問題が存在していることは理解している、法務省人権擁護局が朝鮮学校を訪問するなどの対策を行ってきた、これからも法務省として継続し取り組んでいく、などの発言があったことを明らかにした。

全体像を把握

要請後の記者会見で調査結果について報告する会のメンバー

 若手弁護士の会では昨年11月から千葉、埼玉、西東京で朝鮮学校に対する見学と嫌がらせ被害に関する聞き取り調査を開始。今年1月から3月まで関東地域のすべての朝鮮学校(21校)に通う児童、生徒を対象にアンケート調査を実施。2710人の児童、生徒が回答した。調査を始めた動機について杉尾弁護士は、「9月17日以降、全国で朝鮮学校に通う児童、生徒が脅迫や暴力といった嫌がらせ被害を受けているという報告を受け、まず自分の耳と目で事実を確認しようと考えた」と語る。また、聞き取り調査からアンケートへと調査を拡大した理由を濱野泰嘉弁護士は、「聞き取り調査の過程で、被害に遭っても親や学校に報告していない子どもが多いことがわかり、被害の全体像を把握する必要があると思ったから」と語る。

 アンケート項目は、「9月17日以後に、嫌がらせを受けたことがありますか」「嫌がらせの内容は」「誰かに相談しましたか」「『拉致』報道以前に、何らかの嫌がらせを受けたことがありますか」「最近の共和国関連の報道の仕方についてどう思いますか」「これからの朝鮮人と日本人の関係について、考えていることがありますか」など。

 全体として、9月17日以前と以後の被害件数の変化、被害の具体的内容、「拉致報道」と嫌がらせに対し子どもがどのような考えを持っているのかを把握する内容となっている。

多い女子、低学年

 調査結果について杉尾弁護士は、「被害が9月17日以降、急増していることがわかった。言葉による嫌がらせが多かった。加害者の幅が広がり陰湿化している」と語る。

 回答した2710人のうち、9月17日以降、被害に遭った子どもは522人にのぼる。約5人に1人の割合だ。女子児童、生徒は4人に1人、中級部女子生徒に限れば3人に1人が被害を受けている。男子より女子、高学年より低学年とより弱い者を狙っていることが明らかになっている。

 暴言の内容としては、「拉致ってんじゃねえよ」「お前ら拉致するぞ」と「拉致」という言葉を使ったものが多くみられた。また、「大人による暴言だけでなく…放課後通っている学童保育や塾などで、同年代の子どもに…心ない言葉をはかれるケースが多く見られた。嫌がらせの態様が、見た目には派手ではなくても、日常生活に密接に入り込み、かつ子どもの心には確実に傷を負わせるであろう形で陰湿化している」と分析している。

 濱野弁護士は、「拉致を繰り返すマスコミの責任も大きい」と指摘する。

 一方で、これからの朝鮮人と日本人の関係についての質問に対しては、86%の子どもたちが「仲良くしたい」と回答した。

 「嫌がらせ被害が後を絶たないのは、日本人側の理解不足が根底にある。朝鮮学校の子どもたちと話をすると、眼を輝かせながら、看護師になりたいなど、夢を語ってくれた。今の日本社会が、そんな子どもたちの夢を受け止められる社会なのか。夢を語ってくれた子どもたちのためにこれからもがんばりたい」と杉尾弁護士は語る。

 若手弁護士の会では今後、この調査結果を持ち、日弁連として問題解決に取り組むよう働きかけるなど、積極的に活動していくとしている。(琴基徹記者)

[朝鮮新報 2003.6.26]