「万景峰92」号と日本(下)−日米こそ東アジアの脅威 |
朝鮮を誹謗中傷する報道の中でも、テレビ朝日とNHKは突出しているように思う。NHKは安倍晋三官房副長官がお気に入りのようで、副長官の講演での発言をしばしば大きく取り上げる。6月15日午後6時のニュースでは、盛岡の講演で、「北朝鮮は食糧も燃料も不足しており、日本の援助が必要になる。時は我々に味方をする。だから圧力をかけるべきだ。金正日総書記が劇的に政策転換をする可能性もある」などと言いたい放題だった。 この「親の七光り」政治家は14日には横浜市で、「(朝鮮は)ほとんど暴力団がやっている行為をやっている」とまで発言している。 NHKだけでなく日本の主流メディアは「北朝鮮は核やミサイルの開発を進め、日本の安全にとって重大な脅威を与えている」(6月14日の朝日新聞社説)などと朝鮮の主権と尊厳を冒涜した報道を今も続けている。 なぜ、日本のメディア企業は極右の広報に成り下がったのかを考えたい。 第1に、記者の歴史認識が欠けている。特に日本が1895年の台湾への武力侵攻以降、50年にわたってアジア太平洋諸国を侵略した歴史を知らない。 第2に、在日朝鮮人を含め外国人の記者がほとんど採用されていない。テレビ局には朝鮮語ができる記者やディレクターがほとんどいない。 第3に、メディア界で働く人たちは、ほとんどが男性で有名大学を卒業したエリートたちで、賃金が極めて高く、少数者、弱者の痛みを実感できない。メディア企業の多くが採用試験で、興信所を使っており、社会を批判的に見る人は入社しにくくなっている。 第4に、首相官邸や警視庁にある「記者クラブ」で、権力の情報操作に飼いならされてしまっていて、ジャーナリストは当局に対して懐疑的な姿勢を持つべきだという基本を忘れている。 日本のメディアは、ブッシュ米政権と同じように「朝鮮」を「悪の枢軸」とみなしているが、東アジアの平和と安定を脅かしているのは日米軍事同盟である。在日、在韓米軍基地に核兵器がないはずがない。日本も世界有数の装備をもつ軍事力を保有し、「核開発」、ミサイル開発をすすめ、核武装論も公然化している。 日本が再び朝鮮を侵略する危険性が高まっていると私は思う。過去の侵略の歴史に無反省な国が米英のイラク戦争を全面支援し、朝鮮の脅威を煽って「有事法制」を成立させ、いつでも戦争のできる態勢を整えた。そのうえ、戦闘状態が続くイラクへ自衛隊を派遣する法案を上程した。首相が「自衛隊は軍隊だ」と憲法を無視する発言を繰り返し、カルトの靖国神社に3度も参拝している。「法の支配」が貫徹しない日本は民主主義国家ではない。世界的に孤立しているのは日本である。 91年に、私がインドネシアで特派員をしていたとき、作家のロシアン・アンワル氏に「日本を100年間は信用しない」「日本人には他国民に感情移入ができない」と言われたことがあった。またアラタス外相は「憲法を変えずに自衛隊を海外に出すと日本は世界の敵になる」と警告した。 日本は1930年代に酷似してきた。日本の危機を救うために、朝鮮の人々の「外圧」がいま必要になってきた。 極右政治家とメディアの二人三脚でつくりあげた「反北朝鮮」世論を変えるのはそう簡単ではないだろう。 昨年9月17日の日朝平壌宣言で、朝鮮は「過去の清算」に関する賠償請求を放棄し、日本から政府開発援助(ODA)を受け取る経済協力方式で合意した。 しかし、日本側は「拉致」問題の解決なしに、国交正常化交渉はありえないという姿勢を示している。そこで、私は朝鮮の人民と在日朝鮮人に早急に取り組んでもらいたいことがある。 安倍官房副長官は昨年10月3日の参院決算委員会で、「被害にあった人々の補償を含めて、何を要求すべきか検討していきたい。人権だけでなく、わが国の主権が侵された。これを看過することは決してできない」と述べ、国交正常化交渉の中で補償要求を協議すると表明した。 このように、日本政府は「拉致」被害者について事実関係の徹底的な究明と謝罪と国家による個人補償を求めている。拉致事件は国際的なルールに基づき解明され、関係者は処罰されなければならない。 一方、朝鮮側も過去93年の間に日本が犯した民族ごと連行=拉致した「罪」と戦後58年間の南北分断についても同様の措置をとるように要求する権利がある。3.1独立運動弾圧、創氏改名、強制連行、日本軍慰安婦、原爆被爆者、皇軍に徴用され戦犯となった本人または遺族が、補償を含めて、何を要求すべきか検討してもらいたい。 また、在日朝鮮人の1世、2世の人たちが日本へ渡ってきた経緯について記録し、強制されたのであれば補償を求めてほしい。さらに、在日朝鮮人への差別について個人個人が日本政府と国民に損害賠償を請求する大運動を展開してほしい。その際、在日朝鮮人の子供たちへの暴力についても問題にしてほしい。 拉致問題における日本の要求をそっくりそのまま日本政府と日本国民に向けてほしい。 日本人がこれほどまでに朝鮮を脅威だと称して、誹謗中傷するのは、結局は、朝鮮という国家と国民をなめているからだと私には見える。「拉致」のことで糾弾するなら、日本が朝鮮民族にやってきたことの責任もとれと要求することだ。日本人は相手が弱いと見ると、たたみかけるように追い詰める習性がある。 韓国の盧武鉉大統領は、「万景峰92」号の出港中止が決まった日、TBSテレビの番組で、朝鮮の核問題について「あまり危険と考えるのは、それ自体が危険だ」と述べるなど、日本政府と全く異なる対話重視の姿勢を明確にしている。 韓国の政府と国民も、日本の過去の清算に関する朝鮮の要求について全面支援を惜しまないだろう。日本を危機から救うには、朝鮮と韓国の人民による日本の過去の犯罪についての徹底した追及しかないと私は確信する。(同志社大学教授、浅野健一) [朝鮮新報 2003.6.21] |