「万景峰92」号と日本(中)−「世論」作るメディア企業 |
「万景峰92」号入港に対する日本の妨害工作は在日朝鮮人に対する不当な人権侵害だと思うが、日本政府幹部は「万景峰92」号の「今回の入港取りやめには世論の支持がある」(9日の朝日新聞)と言い放った。朝鮮船籍の船舶の入港を危険視する「世論」をつくったのはマスメディア企業である。 昨年9月17日以降続くメディアの「反北朝鮮キャンペーン」がついにここまで来た。メディアは、権力に先んじて嬉々として朝鮮を誹謗中傷している。 6月8日の新聞各紙朝刊に出た「週刊ポスト」の広告のトップ見出しは「万景峰号は日本破壊工作船だ!」で、横には「核・拉致・カネ」という言葉に続いて、朝鮮国家元首の名前を呼び捨てにして、「侵略≠阻止せよ」とあった。また11日の各紙には「SAPIO」広告の「北朝鮮を封鎖せよ 『万景峰号の犯罪』全図解 運行中断でも解決しない」という見出しがあった。両誌とも日本を代表する出版社、小学館の発行である。 16日朝刊に載った「週刊現代」(講談社)広告は国家元首を誹謗する見出しをトップに据えている。 14日夜のTBSテレビ「ブロードキャスター」で、アナウンサーは「万景峰号を含め北朝鮮船舶が1年間に1415回も日本の港に入港している」と述べ、各地に入港した船舶数をグラフにし、「国交のない国としては異常に多い」とコメントした。 NHKテレビは15日夜のニュース番組で、万景峰号を「数々の疑惑の船」と呼び、「朝鮮は麻薬を売ってミサイルを開発している」と繰り返し報じた。そのうえで、先月20日、米上院聴聞会で黒い頭巾をかぶった2人の「脱北者」が「部品の90%は日本から来た」「万景峰号で3カ月ごとに運ばれた」などと証言した映像と声を流した。 韓国の「東亜日報」は6月5日、韓国の国家情報院が「二人の『脱北者』は、ミサイル開発の技術者と麻薬開発の実態を知る高級官吏と自称したが、情報当局による確認の結果、二人とも下級職の労働者、職員で、証言内容を知りうる位置にはおらず、証言の信憑性に重大な疑問があると国会に報告した」と報じている。NHKはそれを知って、疑惑の証言を真実であるかのようにオンエアするのである。 また、毎日新聞の鈴木琢磨記者は6月10日夕刊に掲載された「特集ワイド1」で「万景峰92」号を「疑惑の貨物船」と決め付け、同船の建造について、「帰国事業はすでに84年に打ち切られている。そんなにも日朝の往来を拡大させる必要があったのか?」と書いた。同船に乗船する在日朝鮮人に関し、「彼らの祖国は『先軍政治』を掲げて、国際社会を恫喝し続ける」などと書いた。朝鮮と朝鮮総聯に対する悪意に満ちた記事であった。 メディアがつくりあげた「反北朝鮮」世論を背景に、警視庁公安部は6月12日、東京都渋谷区の機械メーカー社長ら5人を外為法違反容疑で逮捕。彼らは無許可でミサイルの固形燃料製造などに使用される粉砕機「ジェットミル」をイランに輸出した疑いがあるというのだが、「同社は一九九四年、ジェットミル一台を貨客船『万景峰92』号で北朝鮮に無許可輸出した疑いがあるが、既に時効が成立している」(共同通信)という。 この逮捕について、朝日新聞は6月14日の社説で、「真偽は不明」としながら、「北朝鮮などに対する輸出品については、より厳密に監視し、抜け穴をふさぐ必要がある」と訴えた。朝日新聞記者は「ペンを持った公安刑事」だ。 14日には共同通信が「プラント一式が北朝鮮に 固形燃料開発? 万景峰号で」という見出しを掲げて報じた。警視庁公安部のリーク情報を確認もせず垂れ流すのである。(同志社大学教授、浅野健一) [朝鮮新報 2003.6.20] |