「万景峰92」号と日本(上)−国際法違反の入港阻止 |
私は昨年4月から英国で在外研究して今月初めに帰国した。昨年9月17日、日本と朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の首脳会談で調印された平壌宣言を歓迎した。ところが、日本の極右政治家・マスメディア企業の共謀による「拉致」事件を理由にした「反北朝鮮キャンペーン」と、大量破壊兵器保有国の米国による「核」問題に関する情報操作で、朝鮮へのありとあらゆる誹謗中傷が続き、国交正常化交渉は全く進展していない。 6月4日に帰国して初めて見たNHKニュースは、拉致事件被害者が都内に展示された「朝鮮の工作船」を見学したというニュースを伝えていた。数日後には、「ミサイル関連部品や麻薬などの密輸にかかわったと指摘された『万景峰92』号」(朝日新聞)が9日朝、新潟西港に入港するとテレビで大きく報道された。 大日本帝国の崩壊後の日朝の交流のシンボルである同船を「疑惑の工作船」とでっちあげて、朝鮮とのいっさいの交流を断絶させようという悪質な企てだ。 主要紙は、拉致事件の「救う会」は「日朝の人的物的交流の遮断」を求める運動の一環として、同号の入港に抗議したと報道。公安警備当局が厳戒態勢を敷き、右翼団体なども集結した。 「万景峰92」号の朝鮮からの出港取りやめのニュースが流れた8日、同船の新潟西港への入港阻止を叫んで埠頭に集まっていた「北朝鮮による拉致被害者家族連合会」(家族会)と支援団体は「私たちの勝利」を宣言。「救う会新潟」の会長は「団結した世論の力で入港をやめさせた」と語った。 同船には祖国の親族との再会、墓参のために在日朝鮮人が多数乗るはずだった。祖国への研修旅行を楽しみにしていた朝鮮大学校学生たちもいた。 私は日本人だが、琉球とアイヌモシリを除く大和民族の冷酷さと残虐性に身震いした。集団ヒステリーとも言うべき排外主義。自らの犯した過去の加害の歴史を忘却し、自国民の「拉致」被害だけを問題にする。朝鮮民族を見下すことをやめない日本という国が怖い。 日本に数十万人の在日朝鮮人が暮らしているのは、1910年の侵略以降の強制占領、強制連行、徴用などの結果である。同船は2代目で、初代の船は日本政府がすすめた在日朝鮮人の帰国事業を担った。 私は3月中旬、サンフランシスコにある国連誕生の地を訪れた。連合国会議が1945年6月に国連憲章を採択した記念館の前に、加盟国名が加盟した年の順に刻まれた石碑が並んでいる。日本は1956年のところにあった。91年のところに、大韓民国(韓国)と朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の名前が記されている。 日本の政府、マスコミ企業は、朝鮮が国連のメンバーであることを忘却しているとしか思えない。日本政府首脳は、同船も含め朝鮮からの船舶すべてに対して今後も「特別に厳しい監視体制で臨む」と断言している。特定の国の船舶にだけ、「世論と米国向けに粛々と検査を実施する」「とくに念入りな検査を実施」(10日の毎日新聞)すると表明。マスメディアは国内各地の港に入る朝鮮の船舶を「疑惑の船」(NHK)などと誹謗中傷を続けている。日本政府とメディア企業は国際法に違反し、民族差別をあおって恥じないのである。(同志社大学教授、浅野健一) [朝鮮新報 2003.6.17] |