そこが知りたいQ&A−「万景峰92」号について騒いでいるが |
Q 「万景峰92」号が今月から約半年ぶりに運航を開始する。これに対し、国土交通省は同船の船内検査を実施すると報じられているが。 A 「ポートステートコントロール」(PSC)と呼ばれる、船舶の航行の安全性確保や海洋汚染防止のために日本に入港する船に欠陥がないかどうか調べる制度だという。船体の構造や設備、必要な海図や書類を備えているかどうかなどを同省職員が船内に立ち入って検査する。欠陥があった場合には強制的に出港を差し止めることができるという。 93年の同船初入港時の検査以来、実施されることのなかったPSCを、「ミサイル関連部品の密輸」などと騒ぎ立てている中で行おうとするのは、船舶の安全性うんぬんよりも、政治的な背景があってのものだとしか考えられない。というのも、同省は乗員の上陸も禁止すると言っているが、これはPSCの枠外のものだからだ。だから、日本のマスコミも今回の対応について、「日米首脳会談で小泉首相が表明した『より強硬な措置』の一環」(朝日新聞5月29日付)だと指摘している。 Q 「万景峰92」号については、不当にも日本当局者、一部の国会議員たちの間から入港を阻止すべきだという発言がある。 A 明確な根拠も明らかにせずに、「ミサイル機材運搬船」「工作船」「スパイ船」などと騒ぎ立て、港湾法の改正などに言及している。こうした動きを受けて日本政府は、安全保障上の問題を理由に特定の船の入港を停止できるような条文を港湾法に加える方向で調整を続けていると報じられている。 だが、こうした動きは明らかな国際法違反だ。例えば日本も加入、批准している国連海洋法条約第24条(「沿岸国の義務」)は、「特定の国の船舶に対し又は特定の国へ、特定の国から若しくは特定の国のために貨物を運搬する船舶に対して法律上又は事実上の差別を行うことをしてはならない」と規定している。また、国連海洋法に基づいて制定された日本の港湾法も、「港務局は、何人に対しても施設の利用その他港湾の管理運営に関し、不平等な取扱をしてはならない」(第13条)と定めている。 したがって、「万景峰92」号の日本入港を拒否することは、国際法はむろん日本の港湾法にも抵触する違反行為になる。入港阻止を騒ぐ一方で、特定の外国船舶入港禁止法案の立法化は「必ずしも簡単ではない」(安倍官房副長官)と、日本当局者自らが指摘しているのはこのためだ。 Q 総聯は、「万景峰」号の運航は人道上の問題だと指摘している。 A 現在「万景峰92」号は、朝鮮と日本の間を年に20〜30回往来している。その目的は親族訪問や墓参など、人道上、日本当局自身が認めた在日同胞の祖国訪問事業、そして輸出物資などを運ぶためだ。前者は在日同胞学生、生徒の修学旅行や商用、観光など、年間少なくとも5000人以上が利用している。 そもそも「万景峰」号は、祖国への帰国を望む在日同胞のために就航した。帰国事業は、朝鮮赤十字会と日本赤十字社が協議、帰国協定に調印して59年から始まり、祖国への自由な往来も65年に初めて実現した。79年からは2週間前後の短期祖国訪問事業が開始された。また新潟、横浜、広島など日本各地の港に入港した際には、多くの日本の人々に船内が公開され朝・日民間交流を深めるうえでも寄与してきた。同号に乗船し訪朝する日本人もいる。 だから、「万景峰」号の日本入港を禁止することは、在日同胞の祖国往来の自由を奪う重大な人権侵害であり、また双方赤十字の合意にも反する。さらには、平壌宣言の精神にも背くものだ。 Q なぜ入港阻止などと騒ぐのか。 A 総聯中央広報室が5月21日に発表した談話でも明らかなように、「万景峰92」号は、「日本の法律に基づいて合法的に輸出物資や人道支援物資を運んでいる」。またこのことは、「日本の関連当局もよく承知している」(同談話)。 にもかかわらず入港阻止を騒いでいるのは、米国が朝鮮の「核問題」を口実に、日本や南朝鮮などと連携して取ろうとしている経済制裁、さらには軍事力行使の動きなどが背景にある。朝鮮に対する孤立、圧殺政策だ。そして当面、その標的を「万景峰」号に定めているのだ。そのことを裏付けるように一部の与党議員らは、「入港阻止が『有効なカード』になる」と露骨に口にしている(産経新聞2月12日付)。(姜イルク記者) [朝鮮新報 2003.6.3] |