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認識される在日同胞への差別−国連人権委員会報告〈下〉

 第2次世界大戦後、その苦難の経験を踏まえながら、世界の平和と安全保障、そして大戦中著しく侵害された人権と基本的自由を確保するため、国際連盟に変わる国際的平和機構として1945年国際連合が創設され、人権委員会をはじめとする人権保障のための枠組みが作られてきた。

 90年代に入り、その枠組みは特別報告官制度の充実と、NGOの人権会議への積極的な参加によってますます強化され、それまで国家によって抑圧されてきた社会的、伝統的、文化的、その他様々な弱者の正義を求める声が、徐々にではあるが、汲み取られるようになってきた。

 しかし今回の人権委員会が始まった直後の3月20日、世界中の良心の強い反対にもかかわらず、アメリカ主導による国連と国際法無視の不当なイラク攻撃が強行された。

 昨年、「9.11のテロ」後、初めて開催された人権委員会において、その精力的かつ献身的な活動で、人権の保護と促進に多大な功績を収めたメアリ・ロビンソン人権高等弁務官がアフガン攻撃を非難したが、彼女に対する圧力は相当のものであったのだろう、彼女は非難すると同時に高等弁務官の任務を退任せざるを得なかった。人権の世紀となるだろうとされた21世紀、私たちは多くの人権侵害を目の当たりにし、それに対して国連は無力化しているかのように映っている。このような現実を前に、たかだか2分ほどの発言のためにジュネーヴにまで行き、人権委員会に参加する必要があるのかと、国連活動に対し懐疑的になる人もいるかと思う。

ロビーで各国NGOの女性たちと(右から2番目が筆者)

 だが、世界の良心が、NGOとしてこれまで果たしてきた重要な役割を決して忘れてはならない。

 93年の国連総会において採択された、女性に対する暴力の撤廃に関する宣言の起草過程において女性NGOが果たした役割や、また98年に採択された国際刑事裁判所規定に「強姦、性奴隷、強制妊娠、強制不妊、またはそれらと同等なあらゆる形態の性暴力」が処罰されるべき「人道に対する罪」として盛り込まれた事実をとってみても、この間の「従軍慰安婦」問題をはじめとする重大な女性の人権侵害について継続的に問題提起しながら、既存の男性中心で形作られた国際人権の枠組みに疑問を投じ挑戦し続けたNGOの存在の意義と実効性は無視できないといえるだろう。

 わたしたち在日同胞に関していえば、これまで教育会や女性同盟、留学同、人権協会が、人権委員会や日本が批准した人権諸条約審議委員会に参加し、民族教育の権利について訴えてきた結果、日本政府が朝鮮学校を正規の学校として認めていないこと、そしてそのため朝鮮学校生徒と学父母が大学受験資格においても、助成金に支給額においても被っている差別を即時是正することが、98年の国連子どもの権利委員会を皮切りに幾度となく勧告された。それによってこれまで不可視の存在としての在日同胞の存在が、国際的に認識され、私たちの人権問題が討議されるに至っている。

 このような事実を踏まえ、国連人権諸機関をさらに研究し、より効果的に活用していかなければならないと思っている。その一環として今回、「教育の権利」に関する特別報告官であるクロアチア出身のカタリーナ・トマチェフスキーさんに在日同胞の民族教育への権利について昨年から継続的に問題提起している。

 前回の人権委員会に提出した報告書でトマチェフスキー女史は、教科書、特に歴史の記述において、民族主義に基づく問題が世界中で起こっていると述べているが、この点に関し、日本でも内外の強い反発にも関わらず、歴史修正主義者たちによって書かれた教科書が検定を通っている事実について昨年報告したところ、とても熱心に聴いてくれた。

 今回、朝鮮学校を紹介するパンフレットとともに、在日朝鮮人にとって民族教育とは、国際的に認められた正当な権利であり、日本政府はこれを保障し、促進するための法的、道義的そして歴史的義務と責任を有するにもかかわらず、日本政府は度重なる勧告の履行義務を果たしていないどころか、大学受験資格において欧米系のインターナショナルスクールのみ認めアジア系の民族学校を排除するという差別的な措置をとろうとしたことを報告した。すると、トマチェフスキー女史は、教育の問題は、子どもの未来とともに、その子どもが属する集団の存続にも関わる重要な問題だと指摘しながら、国家によるマイノリティに関する教育政策については今後さらに研究を重ねていく必要があり、そのために日本のケースに関する情報提供を求められた。

 「従軍慰安婦」問題は、今回採択された決議において「女性に対する暴力」に関する特別報告官制度が3年間延長されることが決定されており、今後クマラスワミ報告官による勧告の実施状況に対するモニタリング、その実施に向けた働きかけは、同報告官の後継者に引き継がれることになった。「教育の権利」に関する特別報告官による要請もあった。

 まだ微力ではあるが、もっと力をつけて、今後とも世界の平和と人権の保障を確保していく主体としての自覚を持ちながら国連活動に従事していきたい。(宋恵淑、在日本朝鮮人人権協会事務局)

[朝鮮新報 2003.5.24]