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「慰安婦」問題否定し続ける日本政府−国連人権委員会報告〈中〉

 今回の国連人権委員会への参加目的は、クマラスワミ特別報告官のこれまでの活動ならびに最終報告書を歓迎し、今後も「女性に対する暴力」に関する特別報告官制度を存続させ、その活動にクマラスワミ報告官によるこれまでの勧告の履行状況を監視するシステムを含むよう、NGOとして要請することにあった。

 そのようなNGO側の考えに反し、日本政府としては、「従軍慰安婦」問題に関し、法的責任を果たしていないと再度懸念を表明されたうえ、名指しで批判されている最終報告書と付属文書の存在意義を少しでもなくしたかったのだろう、クマラスワミ最終報告書に関する決議をめぐり、決議起草委員会では激しい攻防が繰り広げられた。

 人権委員会は4月に入って、クマラスワミ女史の報告書を基にしながらカナダ政府によって起草された決議案「女性に対する暴力の根絶」の提出を受けた。この原案では、「特別報告官の調査業績と本委員会に提出された報告書ならびに付属文書1、2を歓迎する」となっていたが、日本政府は「歓迎する(Welcome)」という言葉から、「留意する(Take note of)」に変えるよう強く求めた。

 実は日本政府、この件に関して前科がある。96年のクマラスワミ報告書が提出された時、日本は、報告書自体を評価対象から外すよう求めたが失敗に終わり、そのかわり報告書に関しては「留意する」という表現に落ち着かせ、「『留意』というのは報告書の存在を認めただけであって、『アジア女性基金』による解決は各国から多くの支持を得ている」と喧伝してまわったという過去がある。

 今回日本政府は、特別報告官として活動した9年間、一貫して「慰安婦」問題を提起してきた特別報告官の業績そのものと、自身が批判された報告書の評価を下げようと試みたのである。

 幾度かにわたる決議案起草委員会での攻防の果てに96年同様、「慰安婦」問題を含むクマラスワミ報告者の調査業績については「歓迎する」一方、その報告書については「留意する」という玉虫色の文言になった決議案が提出され、この決議案が4月23日、投票なしの全会一致で採択された。

 しかし、人権委員会本会議では、北南朝鮮をはじめ多くの国家とNGOがクマラスワミ報告官のこれまでの活動とともに最終報告書の「歓迎」を表明し、日本政府に対し「慰安婦」問題と真摯に向き合うことを強く求める発言が相次ぎ、会議場の空気は報告書の評価を「留意」にとどめた決議文とは、まったくの正反対であった。

 本会議において日本政府は、日本軍による性奴隷制は「歴史に前例のない、重大な人権侵害」(朝鮮政府)であり、「その被害者と、彼女たちが属する民族が被った痛みと苦しみは筆舌に尽くしがたい」(南朝鮮政府)ものであるが、この問題に関して日本政府は「道義的責任のみならず法的責任がある」(東京造形大・前田朗教授)にもかかわらず、「『アジア女性基金』なるものでその責任を回避し続け、被害女性がじゅうぶん納得できる措置が講じられていない」(筆者)と批判された。

 とくに国連女性差別撤廃委員会委員であり、韓国挺身隊問題対策協議会メンバーとして10年間人権委員会に通い続け、この問題を提起し続けてきた南朝鮮の申ヘス教授の発言は会場に力強く響きわたった。

 教授は、ソウルで12年間続いている、元「慰安婦」とともに行う日本大使館前での水曜定例抗議集会は、最後の生存者が亡くなるまで少なくともあと10年は続けられるだろうが、すべての被害者が亡くなった後も、彼女たちの不屈の精神は、若者の心の中に生き続けるだろうと指摘しながら、「人権を思う人々と歴史は、日本が自らの戦争犯罪に対する国家責任を否定し続ける事実を記録し続け、そのため日本が世界の指導者としての資格を得ることは決してありえないだろう」と述べたのだった。

 はじめて提起されてから約10年。その間、北南朝鮮をはじめとする世界各国、ILOなどの国際機関、NGO、そして被害女性による正義を求める発言は、ゆうに600を超える。決議の文言が政治力学の働きによってどう変えられ、日本政府がどう歪曲しようとも、日本軍性奴隷制は国家による女性に対する暴力の典型例であり、重大かつ深刻な人道に対する罪であると世界中に認識され、それに対し日本が法的責任を有するということが、国連公式文書として何度も記録されている。

 この事実は重要だ。50年以上もの間、歴史の闇に追いやられ、人間としての尊厳を、人権を踏みにじられてきた被害女性の存在が国際的に認められ、その名誉が回復されたのだから。

 加害の当事国である日本政府が強硬な否定の姿勢を崩さず、「慰安婦」問題の最終的な解決はまだ遠いが、日本を除く各国とNGOが「大歓迎」したクマラスワミ女史の活動業績と報告書が被害にあったハルモニたちの心の傷を少しでも癒してくれたとしたら、今回人権委員会に参加した意義が少しでもあったのではないかと考える。(宋恵淑、在日本朝鮮人人権協会事務局)

[朝鮮新報 2003.5.17]