国連人権委「朝鮮の人権決議案」採択−問われる公正さ、実効性 |
政治的手段に利用 周知のとおり、国連人権委員会は国連が採択した「世界人権宣言」の理念である「人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び尊守の促進」を実効あるものにするための国際的規範づくりに従事し、「国際人権規約」をはじめ、人権にかかわるさまざまな国際条約を策定するなど輝かしい成果をあげてきた。また、政府代表のみならず、非政府組織(NGO)の代表の参加も認めることによって、主権国家の壁を超えた普遍的な価値として人権擁護を国際的に追求することを可能にしたといえる。 「従軍慰安婦」や「強制連行」、民族学校への差別など、日本政府による過去の戦争犯罪や現在の在日朝鮮人に対する人権侵害が国連の場で取り上げられ、日本政府に各種勧告が出されるようになったのも、そのためだといえる。 だが、問題点もある。今回の国連人権委員会には正式メンバーとして53カ国、オブザーバーとして101カ国、その他、12の国連機構や13政府間組織、41の各国人権機関、230のNGOの代表が参加しているが、投票権をもつのは53のメンバー国のみで、発言時間もメンバー国が優遇されるなど、安保理ほどではないにしても、「差別化」されている。 しかし、もっとも深刻な問題点は、米国やヨーロッパ諸国が国連人権委員会の場で、目的であるはずの人権を他国に対する内政干渉や外交的圧力の手段、国際社会における自国権益増大の政治的手段に利用していることだといえる。 それは特に議題9の「国別人権問題」での議論や決議に顕著に表れる。米国やヨーロッパ諸国が自分たちこそが「人権先進国」と言わんばかりに、恣意的に発展途上国や社会主義国、ライバル国を選別して非難決議案を採択し、国際的に圧力をくわえ、イメージを傷つけているばかりか、その結果、人権委員会に対立を持ち込んでいる。欧米諸国が、議題9で提出する決議案の主な対象国が、中国、キューバ、ロシア、イラク、リビア、シリア、スーダン、ジンバブエなどであることをみても、それは明らかだといえる。 一方、欧米諸国は、議会も選挙もない祭政一致の絶対君主制をしくサウジアラビアや同様の政体をもつ湾岸諸国の人権問題を取り上げることはない。それらは例外なく米国の同盟国である。また、パレスチナ全土とレバノンやシリアの一部を不法に占領し、パレスチナ人をはじめとするアラブ住民に対して人権蹂躙の限りを尽くしているイスラエルに関するさまざまな非難決議にはいたって消極的である。 今回ヨーロッパ諸国はアラブ諸国が提出した4つの決議案のうち3つに「棄権」票を投じた。米国に至っては、ことごとくすべてに唯一の反対票を投じている。この米国が「人権擁護と民主主義の回復」を掲げて、安保理までも無視し、イラクに侵略戦争を仕掛けたがそれを非難する決議案は提出されない。 「なぜ、北朝鮮なのか」 こうした中、今回、議題9でヨーロッパ連合(EU)は「朝鮮民主主義人民共和国の人権に関する決議案」をはじめて提出し、数にものを言わせて採択させた。 朝鮮とEUの間には2年前の5月に開かれた平壌での首脳会談を契機に、相互信頼にもとづく人権分野の対話と協力が進みはじめ、最近その枠も広がりつつあったといえる。 朝鮮代表によると、昨年からはEU側の要求に従って、国内の教化所の参観や出所者との対面も実現させたという。また国連人権委員会とは、一昨年7月に「市民的、政治的権利に関する国際規約」履行の審議を受け、昨年の4月と5月、9月には3つの規約の履行報告書を提出し、現在、審議を受ける準備をしているという。 にもかかわらず、EUが信頼を裏切るかたちで、軌道に乗り始めた人権対話と協力関係をつぶすような非難決議案をわざわざ国連人権委員会に持ち込んだ意図はどこにあったのか。 ジュネーブにあるNGO「パックス・ロマナ」のリ・ソンフン事務局長によると、ルモンドなどの現地外国メディアやNGOなどの人権諸団体は、ほとんどが「なぜ今、北朝鮮なのか?!」と疑問を呈し、「毎年、中国の決議案の採択を試みてきた米国が今年に限ってはあきらめ、EUが北朝鮮の人権決議案を提出し、米国が積極的にバックアップしているのは、明らかに政治的意図がある」と推測しているとのことであった。 今回の決議はEUが提案者になってはいるものの、その黒幕が朝鮮に対する封じ込めをより強化しようとしている米国であったことは間違いない。EUのなかではフランスが積極的であったようだが、そこにはイラク問題で損ねた米国の「ご機嫌」を朝鮮問題で取ろうした意図があったという噂を現地で耳にした。 また日本は、今回の決議で「漁夫の利」を得ようと必死に裏で途上国へのロビー工作を行い、表決直前に事務局を通じて「共同提案者」の名乗りを上げた。日本外交特有の「セコさ」を目の当たりにする気がした。 各国からの反対 4月16日午後、決議案採決直前の議論では、中国の代表が「なぜ、開発途上国に対する決議案だけが提出されつづけるのか。最近朝鮮と国連人権機構やEUとの間には、人権分野における多くの協力が行われている。また、朝鮮側も人権報告書を提出するなど着実に努力してきた。にもかかわらず、今、このような非難を込めた人権決議案を採択することは、かえって逆効果をもたらし、ひいては朝鮮半島の平和と安定のための国際的努力に否定的な影響を及ぼす」として、メンバー国に対し反対するよう呼びかけた。 また、キューバ代表は「今回の決議案は、人権とは何の関わりのない政治的性格の濃いものであり、今後、このように人権問題が国際政治的な手段に使われるのを憂慮する」と述べ、反対の意思を明確にしたし、インド代表は「この決議案は、あまりにも一方的で内政干渉的な内容が含まれている。このような『政治的』性格の決議案には同意できない」とした。シリア代表も「今回の決議案は、アメリカの『悪の枢軸』論を正当化するための措置としてなされているものである。朝鮮は、自国に課せられているさまざまな『制裁』にもかかわらず、この間、人権問題の改善のために努力してきた。むしろ朝鮮にたいする『制裁』を解除することを希望する」と言いながら、決議案に反対の意思を示した。 これらの国々とは対照的に、賛成票を投じた国々の中で、なぜ賛成するかを説明しようとした代表は誰一人としていなかった。それほど負い目があったのだろうか。 票決前の最後、反駁演説を行った朝鮮の鄭成日代表は、「決議案」を「全面的に拒否する」としながら、「偽りに満ちている」と強く非難した。また、EUの傲慢さを非難し、信頼を裏切った背信行為に幻滅を表明し強く抗議した。そして最後に、「協力と対決は両立し得ない」としながら、この「決議案」の採択は、今後、深刻な逆効果をもたらすであろうと強く警告した。 あふれんばかりに埋め尽くした人々すべてが、この演説に集中するあまり、水を打ったように静まりかえった会議場には、堂々たる口調で演説する鄭代表の声だけが大きく響きわたっていた。その様子が示唆に富んでいるようで非常に印象的であった。 日本メディアの偏向報道 このような反対意見や朝鮮側の主張を無視し、「決議案採択」という結果だけを、喜び勇んで大きく報道していた日本のマスメディアの偏向報道ぶりには呆れはてるばかりであった。しかし、これによって日本では国連人権委員会が国内世論操作に利用されているということに気づかされた。票決の際、取材に来ていた日本のマスメディアはNHKのみであったので、ほとんどのメディアが直接取材なしの間接情報をもとにし、報道していたことになる。また、例年同様、今回の人権委員会でも、過去の侵略戦争の犯罪と現在の民族差別をいまだに清算、解消しようとしない日本政府に向けられた数多くの批判については、一切報道されていなかった。 米国とそれに追従するヨーロッパ諸国や日本などによる政治的思惑やダブル・スタンダードによって、国連人権委員会、とくに議題9などの議論や決議の公正さと実効性が問われている。その意味で、来年60回を迎える国連人権委員会が「人権の擁護」という理想を実現していくうえで、真の国際的求心力と信頼性を確保していけるかどうか、重要な岐路に立っているのだということを、現場で実感した。(徐忠彦、総聯中央国際局部長) [朝鮮新報 2003.5.16] |