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「誠信」へのアプローチ−朝・日交渉と拉致問題をめぐって

「草の根ファシズムが覆いかぶさっていく怖さ」

 朝鮮や台湾に対する日本の植民地支配を研究してきたが、「9.17」以降の日本のメディアの伝える「北朝鮮」報道に「本当に恐ろしい。草の根ファシズムが覆いかぶさっていくような感じを覚える」と語る。

 電車に乗る度に目にするつり革広告。そこには「人殺し国家北朝鮮」などというような、朝鮮を嘲笑するような見出しが溢れ、政府、外務省の弱腰を非難する言葉が書き連ねられている。そして、その横にはどうしたら楽に金儲けができるかという見出しやセクシャルなゴシップ記事が並ぶ。

 「他人のふりを見て、気晴らしをしたり、スカッとしたいという攻撃性があり、暴力への欲望がある。大衆的なメディアこそが右傾化しており、恐ろしい退廃的な感覚を感じる」。問題なのは、メディアがそうした世論を形成し、そうした議論が盛り込まれたメディアが売れる、ということだと、駒込さんは危惧の念を深めている。「メディアと世論の循環構造が、様々な差別や暴力の温床となる文化を生み出し、さらに増幅されていく。ワイドショー的な気晴らしとしての暴力に共振する報道が続く中で、朝鮮学校生徒が現実にこの気晴らしのスケープゴートとされていったのではないか」。

 この間のメディアの状況を見るにつけ、駒込さんが想起するのが、1930年代の台湾のミッションスクールへの当時の日本の新聞の激しい攻撃である。

 「総督府の弱腰を非難して、台湾人を『非国民』と呼び『皇民化政策』の徹底を要求する。その先頭に立っていたのが、貧しい日本人植民者であり、日本語の新聞だった。その背後には、右翼や軍の意向があった。ちょうど、9.17で『外務省の弱腰』を非難する今のメディア状況と二重写しになって見える」

 植民地統治がより徹底化する中で、朝鮮や台湾で強制されたのが、日本語の使用、創氏改名、宮城遥拝、神社参拝、「日の丸」掲揚などだった。これらは、30年代の異常な事態が生んだものだが、今の「北」をめぐる日本の政治、社会状況に相似するものがある、と語る。

 駒込さんは95年に開かれた「アジアに対する日本の戦争責任を問う民衆法廷」や2000年に日本軍性奴隷制を裁き、昭和天皇の戦争責任を断罪した女性国際戦犯法廷などに関わってきた。それだけにメディア報道の問題点を鋭く問う。

 「女性戦犯法廷は日本ではほとんど世論化されず、市民の目に止まらなかった。台湾の友人たちはこの民衆法廷の事実が自国で大きく報道されたのに、日本では知る人も少ないことに驚いていた。まして、NHKによる女性戦犯法廷の番組改ざん(01年1月放送・ETV特集『問われる戦時性暴力』)は、右翼の圧力に屈して天皇の戦争責任、責任者処罰を明確にしたこの法廷の画期的な成果を民衆が広く共有することを阻むことになった」。番組改ざん問題は、BRC(放送と人権等権利に関する委員会)が3月31日、「放送倫理に違反する結果を招いた」と見解を出した。しかし、NHKはこれに対して、「きちんと反省の意を示しておらず、問題の根は深い」と駒込さんは語る。

 北バッシングが深刻化し、朝鮮を敵視するムードが醸成され、有事法制の国会通過も現実のものとなった日本。新聞も右一直線に揃い、完全に方向感覚を失っていると、駒込さんは見る。「国家間の外交交渉は、人々の生を勝手に値踏みし、計量化し、交渉の材料としていく。日朝首脳が合意した平壌宣言にも問題がないとは言えない。植民地支配と冷戦構造の帰結でもある経済的な優位に居直りながら、植民地支配の責任を曖昧にしようとする日本政府の姿勢には憤りを感じる。植民地支配の清算をこれで手打ちにしてはいけない。平壌宣言を土台にして将来、もっと日本側は率直な謝罪と補償をしていくべきである」。

 駒込さんたちは昨年9月26日、「日朝問題における真の和解と平和を求める緊急声明」を発表した。この声明には3日間で500人以上の賛同者が集まり、多くの人々が長文のメッセージを寄せてくれたという。

 「多様なバックグラウンドを持つ方々が声明の賛同者になって、その意味を真摯に考えてくれたと思う。その一つ一つに目を通しながら、今日の日本社会における『北朝鮮報道』への疑問や違和感が、広がりつつあることが分かった。そして、日朝の和解に向けたプロセスが、市民レベルの和解の積み重ねではなく、政府による外交プランとしてふってわいた弱さがあることも実感できた」

 駒込さんは、憎しみの相互連鎖ではない、東アジアに真の和解を実現するためにも、日朝の国交正常化交渉の再開、朝鮮学校卒業生の受験資格を認定すべきだと主張する。「かつて『慰安婦』問題をめぐって、『男たちは、女性のカラダを戦場にしている』という問題提起が行われた。その言に従えば、日本と北朝鮮が国家の次元で対立を深めることで、在日朝鮮人社会と民族学校の子供たちが『戦場』にされているとも言える。私たちは断じてこんなことを許してはならない」。(京都大学助教授、駒込武さん)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2003.5.13]