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「マスクロード」で文化の共有を−平壌美学シンポに参加した野村万之丞氏に聞く

 【平壌発=文・文聖姫記者、写真・文光善記者】「4月の春親善芸術祭典」期間に平壌で行われた第6回現代と民族芸術に関する美学シンポジウム(14日)に日本から参加した狂言師の野村万之丞氏(本名野村耕介)に訪朝の目的、印象について聞いた。野村氏は1959年、東京生まれ。300年の歴史を持つ和泉流狂言師野村万蔵家の8代目当主。(文責編集部)

仮面の研究に力

 私は日本でいくつかの顔を持っている。本職はもちろん伝統芸能である狂言の俳優だが、それ以外にもパラリンピックのプロデュース、国民文化祭の演出などを手がける演出家であり、演劇人類学の研究者でもある。今回の訪朝の目的に一番近いのがこれ。現在、京都造形芸術大学の教授、国士舘大学客員教授として、世界の音楽、舞踊、仮面などを含む総合芸術を考察している。その中でも近年、最も力を入れているのが仮面の研究だ。

 仮面は、見えない神、見えない心を見えるものにした最初の装置、仕掛けだといえる。その仮面の劇「伎楽」は今から1500年ほど前、百済から来た味摩之によって仏教とともに日本に伝えられたと言われている。聖徳太子の時代に、シルクロードを通ってやってきた伎楽だが、平安後期にほろんでしまい、今では面や衣装、楽器が正倉院や法隆寺に存在するのみとなった。

 情報技術をともなう21世紀というグローバルな時代には1500年前の、文化を共有していたアジアがよく似合う。そう思い、21世紀のシルクロードを創るべく、それを仮面の道「マスクロード」と名付けた。日本に残っている仮面などの物品を使って、伎楽を今日的に再現した公演を東京からスタートさせ、奈良、太宰府を通って海を渡り、朝鮮半島、その後はロシア、中国、インド、チベットへ、そして今のイラン、イラクというペルシャから回って西洋へ逆流することで、文化の恩返しをしたいというのが、「マスクロードプロジェクト」だ。

 2001年には東京、奈良、太宰府で、昨年はソウルなどでも公演した。それをさかのぼっていけば、当然、朝鮮になる。今年はぜひ朝鮮でも上演したいと思った。そのためにもまず、伎楽やマスクロードの存在を知ってもらおうと、美学シンポジウムに参加すべく訪朝した。

 仮面をかぶることで性別、人種、年齢、国境は消せる。それによって文化を共有したいと思っている。それはキムチとわさびを取り替えようというのではなく、チヂミを考えようということだ。「21世紀北東アジアチヂミ」を作ろうではないかというわけだ。

まず民間で仲良く

 私は、政治や経済よりも文化が先行しなければならないと常々思っている。文化というのは相手のことを知ることにつながるからだ。食べる物、飲む物、寝ること、起きること…。相手を知るということが自分を知ることだし、自分を知ってもらいたいから相手をもっとよく知ろうとする。

 だからまず、自分の家にいてぶつぶつ言うのではなく、「お邪魔します」と言って相手のお宅にうかがって、ご飯を食べて、飲んで、話して、互いに理解し合うべきだ。

 実際に来てみると、たいへんのどかで良い国という印象を受けた。平壌は都会的な要素が非常にある反面、木々が多く、緑や花があって、自然と近代文明がうまく調和している。

 まずは民間が仲良くすべきだ。仲良くして悪いという人はいないわけだから、民間が仲良くしたところから物事は解決していくのではないだろうか。

[朝鮮新報 2003.4.19]