現状に異議あり〈中〉−米国を至上とする体系 |
情報操作 過去の人権侵害無視 日本列島が拉致一色に染まった2002年10月28日。朝鮮人強制連行真相調査団の全国交流集会が東京で開かれ、強制連行被害者40万4306人(うち朝鮮人約23万5806人)の名簿が公開された。続いて衝撃的な事実が明かされた。約9万人の朝鮮人軍人軍属への巨額未払い賃金が東京供託局(現東京法務局)に供託されたことを示す旧厚生省資料(外交史料館保存)が見つかったというのである。 その時価総額は、94年の村山内閣のときの台湾人軍人軍属への返済レート(額面の120倍)を参考にすると109億円。現在の自衛隊員の初任給などを参考にすると約1兆4491億円にのぼる。 これらの史実を踏まえた提起は、しかし、たちまち逆巻く拉致報道の大波にかき消されてしまった。02年11月9日の朝日新聞(オピニオン)で、東亜日報東京支社長の金忠植氏がこう指摘する。 「日本のメディアの報道や評論ぶりも、正常でないと感じている。人権と国家主権が絡んだ問題は理性的に扱うべきだ。それなのに感情的な愛国主義とセンセーショナリズムを駆り立てている。『救う会』のメンバーの中には、従軍慰安婦や強制連行、細菌戦部隊など、かつての日本の人権侵害行為を無視するような見解を示してきた人もいる」(抜粋) この金氏の指摘により、北朝鮮に拉致された日本人を救出する全国協議会(佐藤勝巳会長)などの集会光景を喚起された。日の丸の旗が振られ、売国奴や国賊といった言葉が飛び交い、集会の終幕に参加者全員が「うさぎ追いしかの山」を歌い、涙した。私≠ノ淫した約1500人余りの大合唱、センチメンタリズムにまみれた愛憎の奔流。なぜ朝鮮戦争なのか。そう問うと、この異様きわまりない光景がまざまざと蘇えり、同時に朝日新聞が02年12月27日付の12面と13面を使って展開したこれまでの拉致報道に関する、いわば反省記事が浮かぶ。同紙はその中でしきりに「私たちは北朝鮮拉致問題≠おろそかにしていたわけではない」と弁明する。 強者におもねる報道 このなさけない「反省」は、1931年(昭和6年)10月12日の同社重役会議における転換決議を彷彿とさせる。それ以降、朝日新聞は「微々たることを論争する時期にあらず」などと叫んで戦争推進者となり、おびただしい数の侵略、大量殺人行為の美化作業を続け、同時に虚偽や欺瞞を積み重ねて大衆動員にいそしむのだが、さて今日再び、朝日新聞を含むマスコミがこぞって冷静な思考を欠落させ時流(強者)におもねり、ひどく歪んだ言葉を垂れ流している点を看過するわけにはいかない。 たとえばテロとは何か。とりあえず手元の朝日新聞社刊『知恵蔵2002版』を覗いてみる。同項の解説者は、ひたすら少数者や被差別者や被抑圧者や異端者などによる暴力行使を強調し、他方、国家もしくは圧倒的強者によるすさまじい暴力行使にそっと目をつむる。米軍と米情報機関が世界のあちこちでさまざまな流血行為を繰り広げていることは周知の事実である。だが、日本のマスコミはこの検証作業をひどく厭い、いまや彼らの口にする「テロ」は米国に楯突く行為を、米国に抗う行為を意味する。 また、日本のマスコミが北朝鮮絡み≠ナ頻繁に使う「沖合」という言葉ほど奇妙なものはない。たとえば01年12月22日の不審船事件の場合、同沈没場所は「鹿児島県奄美大島の沖合」だと喧伝された。しかし、本当は奄美大島の西北西約390キロ。地図を見れば一目瞭然だが、ここは中国の排他的経済水域(EEZ)内である。それより何より約390キロ先≠ヘ「沖合」ではない。 ちなみに、98年8月31日の北朝鮮ミサイル(飛翔体)騒動の際、マスコミは関係物体の落下地点を連日、「三陸沖合」と繰り返した。が、そこは日本の領海外縁よりさらに約60キロも先だった。あまつさえ声高にミサイル(飛翔体)が日本領空(高度200〜300キロ)を侵犯したと言う。しかし「領空権」は存在しない。国際法上の定義がないのである。そもそも200〜300キロ上空は人工衛星ゾーンなのだ。 なぜ「北朝鮮脅威」か これらの歪められた言葉の列は、「グローバリズム」や「国際社会」という朦朧とした、便宜的、恣意的な言葉と結合し米国を至上とする幻想的な仲良し体系を完成させているのだが、そこに02年9月、ブッシュ米大統領のこんな生々しい声が響いた。彼を対イラク戦争に駆り立てている熱き思いだという。 「フセインはとうちゃん(my dad=父・ブッシュ元大統領)を殺そうとしたやつだ」 つまり、ブッシュ氏は「国際社会」の飾りを剥げば中身はせいぜいdad£度のおそまつなものだと教えてくれたわけだが…、それにしても、なぜ「北朝鮮は脅威」なのか。 北朝鮮は、たとえば日本列島の大半を襲うことのできる射程距離約1300キロメートルのミサイル(いわゆるノドン)を100発ほど配備しているといわれる。しかし、これを指さすなら、やはり日本列島に照準を合わせた中国やロシアの核ミサイル、さらに朝鮮周辺海域や在日米軍基地の恐怖をも真正面から正確に描く必要がある。 在日米軍基地には、核ミサイル・トマホークを搭載した艦艇や原潜が遊弋している。トマホークの射程距離は1600キロ。米第7艦隊の旗艦ブルーリッジは、横須賀に停泊したままトマホークを発射させ即座に北朝鮮全域を攻撃することができる。(野田峯雄、ジャーナリスト) [朝鮮新報 2003.1.17] |