第17回総連各級学校教員の教育研究大会から−03年度スタートする新教科書にらみ |
1月25、26の両日にかけて行われた第17回総連各級学校教員の教育研究大会(教研)では、03年度からスタートする新カリキュラム、新教科書、「週5日制」に焦点を置いた119編の論文が発表された。一連の改編は、民族性を全面に押し出し、日本、世界で通じる力を兼ね備えた人材育成をめざしたものだが、教研では日々、児童、生徒と向き合う教員らの試行錯誤が垣間見えた。(張慧純、李明花記者) 聞き方―話し方、教材の研究に重点(初級部国語) 初級部国語分科では近年、03年度から口語教育を決定的に強化し豊富な言語知識と豊かな民族性を育む内容に改編される新しい教科書に対応するため、教員自身が母国語の資質を高め、正しく教えることを目的とした朝鮮での講習(99〜02年度まで4回にわたり実施。延べ100余人が参加)や研究を全国的規模で積極的に行ってきた。
また、新しいカリキュラムや教科書に対応した授業を一部の学校で実験的に行う作業も昨年度から実施。今回は、それらの研究に基づいた成果をまとめた論文が多く発表された。 神戸初中の金代誠教員は、多様なシチュエーションに合った朝鮮語を習得しても、実際に生かす場所がなかった過去のウリマル教育の問題点について言及しながら、「週5日制」に対応した課外活動を効果的に利用することで、児童、保護者の朝鮮語に対する好奇心や意識を促進させ、学校から家庭へとウリマルの言語環境を拡大した試みについて発表。家庭で親子がともに学べる簡単な会話集を作成し、練習した朝鮮語をコリアタウン見学や登山、バザーなどで実際に使うことで児童、保護者のウリマルへの関心をかきたてた経験について述べた。 また、聞き、話す技能を高めるための新教材「ディベート授業」を実施した東大阪初級の許三文教員は、授業における児童たちの実態を2年間にかけて調査。他人の意見を聞いてそれに対する自分の意見を述べるという作業を重ねる過程で、聞き、話す技能を実践的に高めることのできた経験について述べた。 金弘修分科長(伊丹初級校長)は、「幼少期からの国語教育がいかに大切か、という認識が着実に教育現場に浸透してきていることを実感した」と述べていた。 教員のスキルアップ、環境整備を(情報) 03年度から朝鮮学校で情報教育が強化されるのにともない、今回の教研では新たに「情報」分科が発足した。各学校の情報教育を推進するための「総連各級学校情報教育推進委員会」も結成された。 現在「情報」教育は中2、高1、2で行われているが、03年度からは科目名が「情報」に統一され、中3でも授業に加わる。一部の初級学校でも「週5日制」を視野に入れた研究が重ねられている。 基調報告をした分科長の盧泰碩・川崎初中校長は、児童、生徒が洪水のようにあふれる情報の質と本質を判断し、自身の生活と豊かな同胞社会の構築に生かすことができるよう、教員自身が知的財産を扱う情報教育の位置と使命を正しく理解し、スキルアップに取り組むことが重要だと指摘。それとともに、各学校で情報教育の環境整備を進めることが急務だと語った。 分科会には約30人が参加し、各学校が直面しているさまざまな問題について意見交換がなされたが、担当教員に求められる資質として@授業を高水準で行うA他の教員に実技指導できる力B情報化環境を整えるC知的財産保護や著作権など情報に関わるさまざまな問題に精通する−ことがあげられた。 00年度から、全国の担当教員を対象にした講習会が始まった。また、専用HPを設け、研究レポートをアップするなど経験交流に努めている。しかし、教え方が統一されておらず、学校によってばらつきがあった。 京都中高の金正泰教員は論文で、80年代から始まった朝鮮学校の情報教育を振り返りながら、質向上のためには@情報リテラシー(情報がいつ必要でどこにあるのかを知り、その価値を判断し、効率よく利用できる能力)を高めるための科学的な知識習得と研究A情報科学技術分野と情報処理分野における人材育成−が必要だと指摘した。 個→学校あげた取り組みへ(障害児教育) 障害児教育に関しては1999年の第15回大会で初めて、まとまった調査報告、発表が行われたが、今回は初級部低学年分科で朝鮮学校に子どもを通わせている保護者との懇談の場が初めて設けられた。
懇談会で発言したのは障害者を育てる家族たちのネットワーク「ムジゲ会」の申桃順、朴佳美さんと障害児教育を研究している朝大大学院生の成基香さん。 東京第4初中に次男のb浩くん(初4、ダウン症)を通わせている申さんは、息子がウリマルで会話をできるまでに成長したことを「祖父母も泣きながら喜んでいる。本当によかった」と感無量に語った。 また長男の金一賢くん(初5、自閉症)を東京第5初中に通わせている朴さんは、「朝鮮学校の門を叩くまでに障害児の親がさまざまな壁を乗り越えてきたことをわかってほしい」と問いかけながら、「互いを認め合うという長いスタンス、障害者教育のあり方を朝鮮学校から発信する意気込みをもって取り組んでほしい」と期待を寄せた。 他の分科から教員らが続々と詰めかける様子や、保護者とのコミュニケーションや同胞社会の理解不足など、自身が直面する問題についてアドバイスを求める若い教員の姿は切迫した現場の課題を浮き彫りにしていた。 障害児教育に関しては東京学区でこの5〜6年、担当教員同士の交流や研究が進められている。@すべての教員が障害に対する理解を深め、意識を高めるA障害児向けの多様な教育方法を策定するB学校をあげて福祉問題に対する理解を深め、地域で障害者を助け合うネットワークを築く―ことを課題にまとめ、取り組みを続けてきた。 東京第4初中初級部にはダウン症、自閉症、ウィリアム症候群の障害を抱える3人の児童が在籍している。4年前に受け入れを始めて以来、それぞれの子どもの興味や特性に合った授業メニューや治療プログラムを研究し、社会性や学力の成長を促してきた。 この間の取り組みを話した同校の林寿美教員は、「勉強が不得意な子に個別授業を施すように、一人ひとりに対応した教育が必要で子どもは皆同じということを学ぶことができた。私自身が一番成長できた貴重な経験だった」と振り返った。 [朝鮮新報 2003.2.4] |