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「女性のための相談日」−同胞法律・生活センターで9月1日からスタート

 1997年に東京上野に開設された「同胞法律・生活センター」の相談活動もまもなく6年目を迎える。この間、「センター」が受け付けた相談は延べ件数にして4500件を超え、多数の同胞がセンターを訪れ、関東地域のみならず、新幹線や飛行機を乗り継いでやってくる同胞等も少なくない。電話、FAX、手紙、電子メールなどを通して、北海道から沖縄にいたる日本国内はもちろん、ソウルや済州道そしてピョンヤンなど祖国の同胞や、最近ではアメリカ、カナダ、イギリス、フランスなど海外に居住する同胞らからも相談が寄せられる。

 相談者は、もっぱら国籍が「朝鮮」あるいは「韓国」表示の「特別永住者」の在留資格をもつ在日同胞で、総聯系、民団系、あるいはそのいずれにも所属しない同胞らであるが、日本国籍を取得した人や同胞と婚姻した日本人配偶者も少なくない。相談者のうち2割は「韓国」より来日したいわゆる「ニューカマー」で、ここ2、3年は中国延辺州からの朝鮮族も目立つ。超過滞在者も少なくないが、在留資格も在日歴も様々で、かつては「最近来日した」人たちというイメージが強かったが、実際のところは日本人や在日同胞と婚姻したり、あるいは飲食店やエステ、コンピューター関連などの自営業者もおり、「定住」、「一般永住」などの在留資格で在日歴も10〜20年と長く、もはや「ニューカマー」とは括れない同胞も増えている。折しも6月に発表された法務省の統計では、「特別永住者」の数が(国際結婚や日本国籍取得者の増加により)年々減少し、ついに50万人を切った(48万5180人)とのこと。この事実に今述べた相談者の姿を照らし合わせると、在日同胞社会の構成も非常に様変りしており、そればかりか、同胞の生活の拠点ももはや日本国内だけではなくなってきているように思う。

 このように在日同胞社会の構成員やその生活の拠点が変化するに伴い、同胞等の価値観もまた彼らの抱える問題や悩みも多様化するのは当然だ。それを踏まえて同胞たちの実態とニーズにあった相談活動や情報サービスをいかに、そして柔軟に展開していくか、それが「同胞法律・生活センター」の課題である。

なぜ「女性のため」なのか

相談には女性の専門家とスタッフが応じる

 「センター」は、この9月1日より「女性のための相談日」を設ける。なぜ、「女性のため」でなければならないのか。

 その理由には、まず相談者の4割が女性であること。2番目に、相談内容は様々であるものの、夫婦間のもめ事、離婚や子の養育、親の扶養などのように、問題の当事者の一方が夫や恋人、家族だったり、あるいは職場の同僚や上司など、いずれも身近な男性であることが多い。そのためどちらに非があるかは別にしても、問題の根本において男女の上下関係があるため、相談者は女性であるがゆえに既に不利益を被っていることが多い。ちなみに女性同士のトラブルは嫁姑の問題を除いては非常に少ない。3番目に、これまでも(浮気などを理由とする)離婚の相談は多かったが、ドメスティックバイオレンスに関する相談や、セクシャルハラスメントや人身売買まがいの性暴力に関する深刻かつ緊急の避難先を要する相談が寄せられていることである。どこに行っても誰かしら繋がっている狭い同胞社会の中にあって、同胞を対象とするこの「センター」にさえ、このような相談が目立つのであるから、実際に暴力に苦しみ、逃げ場のない同胞女性らの数は非常に多いはずである。4番目に、今述べたような離婚や暴力で相談を寄せる女性たちの年齢が低年齢化していることである。かつてはこの種の相談者は50代以上の高齢の女性が、半ばあきらめに近いような形で、あるいは長年自分を苦しめてきた夫と自分の人生に落とし前をつけるような形での相談が多かった。しかし現在では、子どもも小さく経済的にも余裕のない若い女性たちからの相談が増加している。なぜか? それは女性たち自らが「人生はやり直せるし、生き方は変えられる」と確信しているからであり、女性自身が自己決定権を自覚しだしたことに他ならない。

 夫婦、家族は健康で円満であるのが当然で、女性にたいしても未だ「誰々の妻」、「誰々の娘」であることが優先される封建的家父長制が色濃い同胞社会においては、先のような暴力は認められ難く、また家庭内のトラブルは家族の恥として内面化させられてきているに違いない。そのため夫の暴力や夫婦関係などに悩んだり、離婚する女性を特別視してしまう風潮は根強い。

ためらわず電話を

 「センター」は以上のような同胞女性たちの現状を踏まえ、同胞女性たちがなんら気がねや気後れすることなく、心おきなく安心して相談できる場所、女性の専門家とスタッフによる法律的なサポートをはじめ、女性たちの抱える悩みを共有できるような場所を提供していきたい。当面は試験段階として2ヵ月に1度の割合で「相談の日」を設け、いずれは弁護士をはじめ各種の女性専門家が常時対応できるような「相談室」の開設につなげていきたいと思う。第1回目の「女性のための相談日」は9月1日(月)、女性弁護士が相談に応じる。ためらわずセンターに予約の電話を入れてもらいたい。

 「センター」では、このような相談者に焦点をあてた活動のみならず、情報サービスにも力を入れる。この9月20日より、毎月1回(第3土曜日、午後2時より、同胞法律・生活センター3F会議室にて、事前に電話予約を!)、在日同胞の暮らしに役立つ法律情報をテーマに連続講座を開催する。第1回目は「何故、トンポに国籍の相談が多いの?―統計と事例で見る同胞の婚姻と国籍問題」というタイトルで、国籍にまつわる様々な事例を紹介しながら同胞の国籍問題をわかりやすく解説する。

 「同胞法律・生活センター」は同胞奉仕の理念を基本としつつも、世代交代のみならずめまぐるしく変化する同胞社会、そして私たちをとりまく日本社会の変化を敏感に捉え、その都度、同胞等のニーズにあった相談活動を今後も積極的に展開していきたい。(同胞法律・生活センター事務局長 金静寅)

東京都台東区台東3丁目41―10。TEL 03・5818・5424

[朝鮮新報 2003.8.25]