開設から5年、4000件の相談−同胞法律・生活センター |
東京・上野の同胞法律生活センター(所長=沈植司法書士)が昨年12月、開設5周年を迎えた。3月には新事務所も設立。この間、受け付けた相談は4000件以上に達する。日本全国から寄せられる相談からは同胞社会の多様化、同胞の価値観、ライフスタイルの変化が読み取れるという。事務局長の金静寅さんに話を聞いた。 高まった知名度 1997年12月の開設以来、昨年末までの全相談件数は延べで4000件を超えた。上位を占めるのは、相続(443件)、金銭貸借(405件)、離婚(249件)、国籍(231件)、在留資格(228件)だった。ほかにも戸籍、姓、名の変更、交通事故、保険、年金、損害賠償、借地借家、登記、自己破産、刑事事件などだ。 相談者はもっぱら総聯傘下の同胞だが、20%は最近南朝鮮から来たニューカマーや中国国籍を持つ朝鮮族で、10%は民団系同胞や日本国籍を取得した同胞。「ニューカマー」というものの、すでに在日歴が20年を超える人たちや、日本人と結婚し、日本国籍を取得している人も多い。日本人弁護士や司法書士、市町村役場、郵便局、家庭裁判所、新聞社からの相続や国籍問題に関する問い合わせも目立ち、日本社会でも知名度が高まっている。 パスポートで問題
一番多かった相続問題では、◇相続人が北南朝鮮にいる。遺産分割協議をどうすればよいか◇遺産の分割で兄弟がもめている。円満な解決方法は―といった内容や遺言の作成、相続放棄の手続きに関するものも多かった。 「6.15共同宣言」以降、総聯同胞の故郷訪問が実現したり、南へ往来する同胞が増えたことを背景に、戸籍に関する相談も増加傾向にある。戸籍の整理に関するものが多く、◇死亡後の相続を円滑にするため、南に生まれた証として自分を「戸主」とする戸籍を編成したい◇出自を明確にするために戸籍を整理したい−などだ。 また、海外に行くのに都合がいいからと「韓国」パスポートを取得するため、「駐日韓国領事館」で国籍を切り替える同胞が昨年9月以降急増している。しかし、パスポートの申請には、「韓国」籍であることに加えて戸籍整理が必要だ。そのため、領事館で国籍を切り替えたものの、その次の戸籍整理が難航し、結局のところ「臨時パスポート」しか取得できず、あげくの果てにはもとの「朝鮮」表示に戻せないかという相談も多い。 姓、名の変更に関する相談も増えている。その多くは外国人登録上の名前の変更に関するものだ。この類の相談は、解放直後に当時の同胞の中には日本語の読み書きに不自由な同胞が多かったことから、知人に手続きを代理してもらい、名前や生年月日、本籍地を間違って記入したことから発生しているとみられる。 このように各地から寄せられる相談からは、過去の植民地支配やそれに起因する日本での差別や過酷な生活、そして祖国分断に起因する家族離散といった、在日同胞の抱える歴史的、政治的な背景が浮かび上がってくる。 国籍を切り離す 世代交代が進む同胞社会で、同胞の価値感が多様化している現状もかいまみれる。例えば国籍問題。国籍に関する相談で多いのは、日本人と結婚した場合の子どもの国籍についてだ。この種の相談は開設当初からポピュラーなものだが、若い世代の相談で目立つのは、子どもが民族国籍を取得できるかをまず確認したうえで、国籍選択は将来本人に委ね、父の朝鮮姓を名乗らせたいというもの。民族と国籍を一体化してとらえてきた1、2世とは異なり、国籍を自分のアイデンティティーと切り離して考える傾向が強いようだ。 また、「事実婚」のカップルが子どもの国籍を問い合わせるという、ライフスタイルの変化を反映したものも増えている。 3月から新事務所、朝・日の専門家常時待機
同胞法律・生活センターは3月3日から事務所を移転し、業務を開始した。 相談員および協力者の数は34人。相談業務には同胞、日本人の弁護士、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士らがボランティアで対応している。 月曜日には弁護士、水曜日には行政書士、社会保険労務士が常時待機し、対応。相談時間は午後1時半から4時半で、一件につき約50分。初回の相談料は無料だ。 電話、ファクスによる相談は、月〜土までの毎日、午前9時半から午後6時まで受け付けている。電子メールによる相談も随時、受け付けている。 事務所移転は同胞の生活や地域に根ざしたセンター作りを目指したものだが、今後は有資格者や地域同胞を対象にしたセミナーや自治体との協力も深めていくという。相談業務以外にも、相談事例を掲載した「センターレター」を定期的に発行(有料)している。戸籍謄本に関する相談や裁判資料などの翻訳も有料で行っている。ホームページ=http://www.tonpo-center.net/。 [朝鮮新報 2003.4.8] |