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ダブルの目

 「私は朝鮮人でありながら日本人です」

 この書き出しから始まる作文は、今年度の在日朝鮮学生「コッソンイ」文学作品コンクールの審査で1位に選ばれた南武朝鮮初級学校6年・李由衣さんの作品だ。李さんは朝鮮人と日本人の間に生まれたダブル。幼い頃から親を「アッパ」「オンマ」と朝鮮語で呼びながらも、朝鮮にルーツを持つことを知らなかった。朝鮮の言葉や歴史を学び、初めて知ったという。

 朝鮮が日本の植民地だと知った時は「アボジの国とオモニの国が戦うなんて、と胸が痛んだ」。この時から朝鮮人と日本人の両方の立場で物を考えるようになったそうだ。

 朝・日首脳会談(昨年9月17日)で明らかになった拉致事件に李さんは大きく揺れた。朝鮮人が日本人を拉致したという事実をどう受け止めればいいのか。その葛藤を切々と綴った。

 9.17以降の「洪水報道」は、日本社会をどうとらえればいいのかという問いを連日私にぶつけ続けている。考えたすえ、「話し合うことしかない」というスタートラインに立ち返りながらも、怒涛のように押し寄せる報道の波にその「理性」が何度吹き飛びそうになったかわからない。李さんの文章に思いを重ねながら一気に読み進んだ。

 「9.17以降、アボジとオモニは力を合わせて私たちを守ってくれている。本当に誇らしい。…国が違っても互いを理解し、助け合える平和な世界が早く来ればいい。涙を流す人が出てこないように…」

 国と国との関係が人々の生活に直結しているという自明。「アボジとオモニのように朝鮮と日本が仲良くなればいいのに」という彼女の思いが痛いほど伝わってきた。一度は敵対した国の双方にルーツを持つ彼女の苦悩とともに、一方の利害を超えた視点が光った秀作だった。私たちのコミュニティーに真の豊かさをもたらす「芽」を見た気がした。(慧)

[朝鮮新報 2003.1.14]