在「日」から在「地球人」へ−コリアン、世界が活躍の舞台 |
自分にしかないものを 第30回ローザンヌ国際バレエコンクールでは、朝鮮代表として出場し、最優秀の成績を収めることができた。コンクールでは、世界の1流バレエ団で1年間研修ができる「プロ研修賞」を受賞。同賞を受け、昨年9月から単身渡英し、英ロイヤルバレエ団で研修生活を始めた。 渡英当初は朝のレッスンに参加するだけの日々が続くなど、とまどったこともあったが、最近では「白鳥の湖」「くるみ割人形」など週5回の公演にコールドダンサー(バックダンサー)として毎日出演している。レッスンから舞台のリハーサル、そして本番まで、一流のダンサーたちとまったく同じスケジュールをこなすハードな毎日だが、シルビ・ギエムをはじめとするプリンシパルたちと間近で接することができるすばらしい環境のなかで、とても良い刺激を受けている。 研修終了後は同団に入団し、ダンサーとして活躍したい、というのが当面の目標だ。今年も「マノン」や「眠れる森の美女」などに出演が決まっているので、その目標を達成できるように一つひとつの公演に全力投球で臨んでいきたい。 純粋なイギリス人を探すことの方が難しいほど人種のるつぼ。それぞれが強烈な個性を放っているなかで、私自身も自分にしかないものをアピールしていきたい。私にとってそれは「民族教育を受けた在日コリアン3世」という自分の個性。これからもその個性を活かし素敵な大人を、素敵なダンサーを目指したい。(崔由姫、18、英ロイヤルバレエ団研修生) 狭い枠にとらわれず 京都大学工学部卒業後、渡米しマサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学科で博士号を取得した。現在はMIT研究助教授を務めるかたわら、米国と日本でベンチャー企業を設立し経営に携わっている。米国の会社はロボットや工作機械のための制御装置の開発、日本の会社ではインターネットを使ったIT教育やホームオートメーションを開発、提供している。 学位をとる前からロボットを研究していたことが会社設立につながった。ただ論文を書いて学会で発表して満足するのではなく、研究したものを実際に作って人に使ってもらい確かめたいと思っていた。万人に認めてもらうことで達成感を得られる。 今は米国を拠点に、アメリカという国をおおいに利用してビジネスをしている。移民の国、米国では外国人でも実力さえあればやっていける。米国で作ったもの、開発したものはそのままグローバルスタンダードになるというのも重要な要素だ。つまり、米国でのビジネスは世界のビジネスになる。世界が活躍の舞台になるわけだ。 私自身、朝鮮人という民族性を土台にしながら、在日≠ノとどまらず、在地球人≠フ枠で自分の位置をとらえている。それによって逆に、世界の中の朝鮮人を再認識できる。 在日は、ある種、運命によって日本という海外に暮らしているのだから、もっと気軽に世界にはばたいていけると思う。狭い枠にとらわれず、さまざまな選択肢の中で考える時代なのではないか。 私ががんばることで、後輩たちに道をつけてあげられれば本望だ。適度な国際感覚と強い意志、目的意識そして勉強−それさえあれば道は必ず開けるはずだ。(梁富好、37、MIT研究助教授) 英語で人とのつながりを 留学、観光、ワーキングホリデーなどさまざまな理由でカナダに渡航する日本在住者を対象に、彼らが滞在する間の学校、ホームステイ先を斡旋するほか、現地でのサポート、アドバイスを一手に引き受けている。現在まで朝鮮学校生徒をはじめ、約4000人をサポートしてきた。 大阪朝高卒業後、大好きだった英語を本場で身に付けたいと留学を志し、3年間働いて資金を稼いだ。それから10年、何の基盤もなかったが、とにかく必死でがんばってきた。 仕事上、在日の若者たちに数多く接するが、彼らがカナダに来て一番初めにぶつかるのは「自分」という壁。そこで動じず、朝鮮人であることをしっかりふまえて人と接することができるのは、やはり民族教育を受けてきた生徒たちだ。私自身、高校まで受けてきた民族教育のおかげで今があると言っても過言ではない。苦労をして通わせてくれたオモニ(母)に感謝するとともに、そのすばらしさを実感する毎日だ。 今年の目標は、英語の語学学校をカナダ・ケロナ市にオープンすること。6月に開校予定で準備を進めている。現地での業務をさらに発展させ、より総合的なサポートを行っていきたいと思っている。 昨年は、大阪で行われた青商会の「ウリ民族フォーラム」への出演をはじめ朝鮮学校の先生、保護者の方々など多くの人々との出会いがあった。今年はその出会いを生かし、昨年以上に人とのつながりを広げていきたい。また、家庭と仕事の両立も今まで以上に充実させていきたい。(高貞恵、35、留学斡旋業) 世界つなぐ潤滑油に 朝鮮大学校外国語学部を卒業後、同大研究院に入学。2000年5月に渡英し、英エセックス大大学院で「人権の理論と実践」コースを専攻した。人権問題を志した理由は、国際社会の場から在日同胞の諸権利を訴えていきたかったから。そのためにも国際的な人権機関をいっそう活用できる専門的な知識を身に付けたいと思い、同コースを選択した。 修士課程を修了後、昨年7月にはスイス・ジュネーブで行われた第54期国連人権小委員会にNGO代表として参加。日本軍性奴隷問題にも取り組んだ。現在は在日本朝鮮人人権協会会員として、民族教育の処遇改善問題に携わっている。 国連の場で北、南、日本の有志たちと活動しながら実感したのは、3者をつなぐ潤滑油になれるのはやはり在日同胞だということ。なぜなら私たちはその3者の歴史や文化を知り、理解することができるからだ。 それぞれの国にある人権問題について世界中の留学生たちと話すたびに、人権に軽重はなく、在日同胞が置かれている状況がまだまだ深刻であると感じた。留学で得たそのような実感と知識を、同胞の実生活にどのように役立てていくかというのが今年の課題だ。 過去の歴史をふまえながら、温かく、豊かで力強い同胞社会を築き、明るく平和な未来を創造していくこと。そのような大きな目標を胸に、1世たちの権利獲得運動の精神を忘れることなく、一歩一歩確実に前進していきたい。(宋恵淑、26、在日本朝鮮人人権協会会員) 化学反応の法則、世界に 化学反応を自由に制御することができれば、人間生活に有効な物質のみを作り出し、またエネルギー問題や環境問題の解決も可能になる。 大阪朝高を卒業し、大阪大学理学部、同大学理学研究科・理学博士、アメリカライス大学・博士研究院、台湾原子分子科学研究所博士研究員などを経て、現在は大阪大学の理学研究科で助手を務めている。 専門分野は、化学反応動力学。簡単に言えば、どうして『反応』というものが起こるのかを調べて、自由にほしいものだけを作るというもの。 原子や分子のレベルで化学反応をとらえ、その完全制御を目指している。具体的には分子の方向をそろえ、化学反応を起こしたり、あるいはレーザー光を用いて分子の特定の状態からのみ化学反応を開始させることで、反応の制御を行っている。 年に1〜2回行われる国際学会で研究成果の発表を行っている。アメリカ、ハワイなど多くの外国へ渡っている。 昨年12月には、オランダで行われた国際学会で発表し、各国の研究者らとも話し合いができとてもいい刺激になっている。また、関西にいる同胞研究員たち約10人で月1回、勉強会を開いており、若手育成のための活動も行っている。 将来は、例えば「化学反応を自由に操る法則」を作り出し、世界に広めていきたい。(蔡徳七、39、大阪大学・理学研究科助手) 専門分野のエキスパートに 21世紀は「脳の世紀」といわれるが、それは脳機能を理解するという最終的なフロンティアへの手がかりが見えてきていることを意味する。朝鮮大学校大学院に在籍しながら、明治大学大学院で博士前期過程を修了し、現在、玉川大学大学院後期過程で学んでいる。専攻は計算論理的神経科学。人間とサルの違いは前頭前野の発達程度に違いがあると言われるが、その解明のため、米国の学者から得たサルの脳神経系における情報伝達、変換の情報をスパイク解析している。 昨年は、日本でも権威ある理化学研究所の学者とともに、北米神経科学学会(フロリダ)、日本神経科学学会(鳥取)で研究成果を発表した。とくに世界中から2万人の学者が参加した北米神経科学学会では、参加者との質疑応答を基本にしたポスト発表形式で、論議、交流を深めることができた。ノーベル賞クラスの学者が出演するシンポジウム形式の発表には(当然)手が及ばなかったが、いつかはあの演壇に≠ニいう思いを強めることができた。 学会で出会った在米同胞もそうだが、朝鮮同胞は世界各地に暮らしている。とくにその中でも在日は、北と南、世界中の同胞、さらには日本人との交流をつなぐ役割を果たせる。そのためにも、まだ未熟だが、力を蓄え、その分野でのエキスパートを目指したい。(姜時友、27、朝鮮大学校研究院生、玉川大学大学院生) [朝鮮新報 2003.1.8] |